毎日新聞 12月31日(火)
「消費者被害を減らすためにもハローワークを通じた採用防止策を」と語る女性=東京都内で2013年11月7日午前0時36分、吉川雄策撮影(写真省略)
うそをついて健康食品を販売したなどとして、元社員4人が特定商取引法違反(不実の告知)罪で有罪判決を受けた東京都中野区にあった健康食品販売会社「日本健康促進協会(日健)」の求人を、ハローワークが出していたことが分かった。求人が出ていた時期には同社に関する苦情が消費生活センターに寄せられていたが、センターを所管する消費者庁、ハローワークを所管する厚生労働省は情報を共有していなかった。事件ではハローワークの紹介で入社した女性が有罪判決を受けており、専門家は「行政の情報共有とチェック体制の強化が必要」と指摘している。【吉川雄策】
日健の元社員4人は昨年5〜7月ごろ、山口、福岡、大分など6県の62〜87歳の男女7人に電話し、健康食品の売買契約をしていないのに「以前契約してますよね」などとうそを言って商品を買わせようとしたとして今年6月に逮捕された。
山口地裁は今年10月、4人のうち26〜35歳の男性被告3人に懲役1年〜1年6月の実刑判決を、女性被告(60)に懲役1年2月、執行猶予3年を言い渡し、確定した。
東京労働局によると、日健の求人は昨年3〜6月に計4回出されていた。有罪判決を受けたこの女性は昨年3月末、東京都文京区のハローワーク飯田橋で日健の求人を見つけたという。すぐに紹介手続きが取られ、4月から本格的な勤務についた。
国民生活センターによると、女性が日健の求人を見つけた昨年3月には「注文していない商品が送り付けられた」などの日健に関する苦情が各地の消費生活センターに寄せられており、今年6月までに196件に達したという。だが苦情の情報はハローワークに伝達されなかった。
「ハローワーク飯田橋」は「法令に基づいて適切に対応した。求人を紹介した時点では問題はなかったと思っている」と話し、厚生労働省、消費者庁は「情報共有は現実的に難しい」としている。
女性は「このままだときちんとした職探しをしても知らない間に違法行為に組み込まれる人が出て消費者被害も増える」と訴えている。
龍谷大法学部の脇田滋教授(労働法)の話 法令違反の仕事を公的機関が紹介することはあってはならない。ハローワークの社会的責任は大きい。省庁間の情報共有が進まなければ、今後も振り込め詐欺をする会社などが入り込む余地がある。情報共有と職業安定所によるチェック体制を整えるべきだ。
◇有罪判決…「自分の判断力のなさ 悔しい」
有罪判決を受けた女性(60)が「日健」に就職したのはさまざまな事情があった。
大卒後、外資系会社に入社しキャリアを積んだが、14年前、家族の介護のために退職せざるを得なかった。その後、不動産会社に就職したものの、2008年のリーマン・ショックでアルバイト採用にされたという。生活のため化粧品の電話勧誘などをしながら仕事を探していた時、ハローワークで日健の求人を見つけたという。他にも10人ほどがハローワークの求人を見て日健に入社した。
入社後、しばらくして職場の雰囲気が変わり、電話勧誘員たちにマニュアルを渡され、勧誘の際、本来存在していない売買契約が成立しているようにうそをつくことを強要されたという。女性は責任者の男性(26)に「問題があるやり方だ」と抗議したが聞き入れられなかったという。
女性は山口地裁での判決公判で「こういう会社と知らずに入ったが、最後は自分の判断力のなさ。情けない」と涙を流した。毎日新聞の取材に対し「被害者の皆さんには申し訳ない。でも、ハローワークの紹介がなければ犯罪に関わることはなかった」と悔しそうに話した