Business Journal 3月30日(日)15時26分配信
政府が地域を限定して規制緩和を進める国家戦略特区のうち、大都市圏を想定した広域特区について、東京圏は東京23区、横浜市、川崎市の一部、関西圏は大阪市、京都市、神戸市の一部を選定する。東京圏は海外企業を呼び込むために職場や住居などの都市環境を整備する必要から、容積率の緩和などが柱となる。関西圏は、高度医療を可能とする病床規制の緩和や先端医療の研究を促進する研究開発税制の拡充が中心となる。
特定分野の規制緩和を実現するために複数の市町村を1つの特区とする革新的連携特区(バーチャル特区)は、農産物の生産から加工・販売までを手掛ける農業の6次産業化を提案している新潟市や、雇用と起業分野で売り込む福岡市が有力になっている。政府は4月をメドに特区計画を決定する。
最も注目されるのは、福岡市の案だ。雇用面の規制緩和や税制上の優遇を行い、起業しやすい環境を整備することになっているからだ。
安倍晋三政権が成長戦略の柱と位置付ける国家戦略特区の最大のポイントは、雇用の規制緩和だった。現在の日本の労働法制は解雇を厳しく制約している。特区における規制緩和は、
(1)労働者と経営側が事前に契約を交わし条件や手続きを明確にしておけば、解雇しやすくなる
(2)有効契約で5年を超えて働いた人が、無期契約になれる権利をあらかじめ放棄できるようにする
ことを目指した。外国企業の進出やベンチャー企業の設立を容易にし、海外からの投資を呼び込む狙いがあった。
だが、雇用の規制緩和は野党や労組、マスコミから「解雇特区」「ブラック企業特区」と批判された。首相周辺は「雇用軽視のレッテルを貼られたら、安倍政権の実績が吹き飛びかねない」として雇用の規制緩和を先送りした。しかし、「失業なき雇用の流動化」をスローガンに掲げ、雇用見直しを加速させたい安倍政権は、岩盤と見なされてきた雇用の規制を打ち破る突破口として、バーチャル特区の福岡市での実験的導入を目指す。
●広がる非正規雇用
景気回復を受けて雇用は改善してきているといわれる一方、収入が低い非正規労働者の比率が高まっているという実態もある。総務省の統計によると、2013年の非正規労働者数(年間平均)は1906万人。労働者全体での比率は前年より1.4ポイント上がって、36.6%と過去最高を記録した。パートが多い女性は同55.8%と高いが、男性も前年に比べ1.4ポイント上がり21.1%となり、男性で初めて2割を超えた。さらにリーマン・ショック後の世界的景気後退の時期にあたる09年7月に、過去最悪の5.5%を記録した完全失業率(季節調整値)は、13年12月には3.7%と、07年12月以来6年ぶりとなる低い水準に下がった。
しかし、数字が持ち直す原動力となったのは、パートタイマーや派遣社員、契約社員といった非正規労働者の伸びであり、景気回復が正社員の増加につながったわけではない。各種雇用統計は、企業が、仕事が増えれば非正規社員を雇用し、仕事が減れば非正規社員を解雇する傾向を強めていることを示している。
正社員を非正規社員に置き換える流れは、政府が今国会に提出する労働者派遣法改正で、さらに加速する。現在、専門性が高い通訳や秘書、OA機器操作など26業務は派遣期間に制限がないが、それ以外の仕事は最長3年だ。改正案では、全職種で労働者を3年ごとに替えれば、ずっと派遣に任せることができるようになる。事前に労組の意見を聞く手順を踏む必要があるが、最終的には経営側が判断する仕組みだ。
もともと企業は正社員の雇用には慎重だ。正社員の数がさらに絞り込まれ、低所得で受けられる社会保障のサービスも薄い非正規社員が増える。高所得層と低所得層の二極化が、一段と進もうとしている。
編集部