朝日新聞 2014年5月8日
写真・図版(省略)
働く時間が長くても「残業代ゼロ」が拡大/「残業代ゼロ」をめぐる動き
◇時間より成果(せいか)を重視する。長時間労働(ろうどう)の心配(しんぱい)があるよ
アウルさん 残業代(ざんぎょうだい)がでなくなるって本当なの?
A 会社が従業員(じゅうぎょういん)を働(はたら)かせていいのは「原則(げんそく)1日8時間まで」と、最低限(さいていげん)の労働条件(ろうどうじょうけん)を定める労働基準法(きじゅんほう)で決められている。残業させたり、深夜(しんや)や休日(きゅうじつ)に働かせたりすれば、企業は特別(とくべつ)なお金を払わなければいけない。「働き過ぎ」を防ぐためだ。いまは、部長や課長など監督(かんとく)する立場の管理職(かんりしょく)には払(はら)わなくていい例外(れいがい)があるけど、ヒラ社員も出なくなるかもしれないよ。
ア どうして?
A いまは働いた時間に対し賃金(ちんぎん)を払うのが普通(ふつう)だよね。ところが、目標達成などの成果(せいか)(仕事の結果〈けっか〉)に対し賃金を払うやり方を認められないか、安倍政権(あべせいけん)が検討(けんとう)を始めたんだ。一般社員を対象にする場合、会社が従業員を代表する労働組合と合意(ごうい)することや本人も同意(どうい)することが条件(じょうけん)だ。働き手にとって時間に縛(しば)られない働き方ができて、「子育てや介護(かいご)をしている女性も働きやすくなる」というのが理由(りゆう)なんだ。
ア がんばっても成果が出ないこともあるわよね。
A そこが問題だ。成果が出ないと、労基法が決めた時間を超(こ)えて働いても「残業代ゼロ」になる。若者を酷使(こくし)するブラック企業問題に詳しい佐々木亮(ささきりょう)弁護士(べんごし)は「会社が残業代を払わずにすむ選択肢(せんたくし)が増えるだけ」と指摘(してき)する。これと似た仕組みは、第1次安倍政権でも年収の高い人に限って検討されたけど、世論(よろん)の反発(はんぱつ)で断念(だんねん)したんだ。
ア 本人の同意が必要なんだから、嫌(いや)なら断(ことわ)ればいいんじゃないの?
A 会社との力関係で断れるとは限らないよ。時間の縛りがなくなると働く時間が長くなる心配(しんぱい)もある。働き過ぎでうつ病になった人などへの労働災害(ろうどうさいがい)の認定(にんてい)は、3年連続(れんぞく)で過去最多なんだ。働く人のためというなら、今でも長いと言われる働く時間をどう短くするかが先だよね。(山本知弘)