YOMIURI ONLINE 2014年7月8日
公立小中学校の教員構成の推移
小中学校の教員定数に対し、定数内非正規講師の割合が高い県、低い県
教育現場にも非正規労働が増えている。公立の小中学校で教える非正規の教員は全国で約12万人にのぼり、人数割合は16%を超す。
担任を持つなど正規と同様の仕事をする常勤講師も多いが、1年度限りで失業する不安定な雇用で、待遇の差も大きい。教育の継続性などの面で影響が懸念されている。
任期6か月、更新1回限り
大阪府東部の中学校で数学を教える男性は、常勤講師を30年余り続けてきた。しばしばクラス担任を持ち、運動クラブの顧問もしてきた。
「子どもは何かに感動した時に変わる。子どもの成長が一番の喜びですね」
だが、成長を経た子どもの姿を見ることは少ない。正規の教諭と違い、講師は年度が変わると、たいてい別の学校に移るからだ。
常勤講師は、地方公務員法の「臨時的任用職員」。もともと産休、病休などの代替教員を想定した任用制度なので、任期は6か月以内、更新は1回限り。府では毎年、3月30日で任期が終わる。
収入は正規の7割
実際には、府教委の講師リストに登録しておき、3月に市町村から個別に内定が出たら、4月1日からまた働くのだが、府教委は、継続的雇用ではない形にするため、3月31日を「空白の1日」にして毎年、失業させている。他の都道府県もほぼ同様だ。
「熱意も指導力も十分あるつもりだが、落ち着いて仕事ができない」と男性は話す。
今の中学では教員50人のうち9人が常勤講師。給料の基準は正規の教諭より低く、昇給は35歳ぐらいで頭打ちになる。空白の1日のせいで夏のボーナスも2割減になり、年収は正規の7割前後だ。
また、空白の1日の関係で厚生年金保険は3月の加入資格が失われ、健康保険も3月31日は協会けんぽから外れる。厚生労働省は今年1月、短期間の空白なら社会保険を継続するよう通知したが、府はまだ適用していない。
非正規35年…修学旅行の準備に加われず
名古屋市で小学校の任期付き教員を続けてきた男性(59)はこの春、任用の声がかからず、失業している。かつては採用試験を何度も受けたが、非正規のまま35年。
「校風や地域事情を知り、子どもの家庭状況や学力、性格、人間関係などをつかむには時間がかかる。それができたころには1年の任期切れ。修学旅行準備など長期的な取り組みにも加われない。それに、若い非正規教員だと次の任用や採用試験が気になり、自分の意見を言いにくい」
増加の背景に給与「総額裁量制」
教員の定数(法律上の必要標準数)は毎年、子どもの数から算出した学級数をもとに決まる。義務教育の場合、定数分の給与費は都道府県が負担する。その3分の1は国庫負担金、3分の2は地方交付税交付金として国から出る。
国庫負担金には2004年度から「総額裁量制」が導入され、定数に国の給与基準を掛けた総額の範囲なら、具体的な配置方法は地方にゆだねられた。給与水準を下げて多数の正規教諭を置く選択を可能にするためだったと文部科学省は説明するが、その後、多くの府県で、非正規の「定数内講師」が増えた。
大阪府内の小中学校では正規教諭3万501人に対し、定数内の常勤講師が3704人、産休代替などの常勤講師が2007人、時間給の非常勤講師が1110人(昨年5月)。講師が学年主任や教務主任を務める学校もある。
教委「大量採用は人員過剰のおそれ」
府教委の担当者は「定数内講師が多いのは好ましくない」と認めつつ、「人件費抑制のためではない。約10年前から団塊の世代の教師の大量退職期に入ったが、若い人を大量に採用すると年齢構成がまた偏るうえ、少子化が進む中で将来、人員過剰になるおそれがあった」と言う。
講師経験者の別枠採用は08年から始めたが、採用は年200人台。講師も教員免許を持ち、現に教えているのだからもっと正規へ採用しては、と尋ねると「合格ラインを下げると質の問題が生じる」。
文科省は「定数内は正規の教諭をあてるべきだ。非正規では教育の継続性、研修の機会などの面で問題がある」とする。一方、山口正・日本福祉大教授(教育行政)は「もともと文科省の政策の失敗。地方まかせにせず、安定した教育体制を確保する方策を講じるべきだ」と強調する。
「人事政策の調整弁」として増えた非正規教員。そういう働かせ方の影響が、子どもに及ぶのがいちばん困る。(編集委員 原昌平)