毎日社説: 若者と労働規則 就活を誤らないために

毎日新聞 2014年07月08日 02時35分

 景気回復を受け2016年3月卒業予定者向けのインターンシップ説明会が開かれるなど、早くも大学3年生の就活が始まっている。終身雇用を望む学生が増え、安定志向は一段と強まっているが、正社員だからといって安心はできない。若者を使いつぶすブラック企業ばかりでなく、一般の企業でも長時間労働による過労死が増加傾向にある。就活と同時に労働に関する規則についても学び、自分を守ることができる社員になることが求められている。

 勤務時間以外に仕事をさせても残業代を払わない、休憩を与えず長時間労働を強いる、理由を書かないと有給休暇を取らせない……。ブラック企業によく見られる行為で、法的には禁止されている。たとえ残業代が基本給に含まれていることを労働者が同意しても会社は残業代を払わなければならない。どのように就業規則に書かれていても法律より低い労働条件を就業規則で定めることはできない。

 ところが、現実にこうした被害にあった若者の8割が泣き寝入りをしているとの非営利組織(NPO)の調査結果がある。「その時は違法だと知らなかった」「どうすればいいかわからなかった」という。連合などは各地の高校や大学で労働規則を学ぶ出前講座を行っており、日本労働弁護団も全国各ブロックにホットラインを常設し電話相談を受けている。「失敗しない会社選び」というセミナーを実施しているNPOもある。就活を間違わないためにこうした取り組みをもっと活用すべきだ。

 問題はブラック企業ばかりでない。長時間労働は一般企業でも多く、労災認定された過労死や自殺は増加傾向にある。労働基準法では労働時間を1日8時間、週40時間と定めているが、労使協定(36協定)を結べば、それ以上の長時間労働が認められており、大企業の94%が36協定を結んでいる。通常国会で成立した過労死防止法は国の責任を明記したが、法制上の措置は調査研究した上で必要に応じて講じるということにとどまっている。

 会社との力関係を考えると従業員が1人で長時間労働を拒むのは難しいが、こういう時こそ労組が役割を果たすべきである。1人で加入できるユニオン・合同労組もある。都道府県労働局には無料で個別労働紛争の解決を援助する制度もあり、年間100万件を超える相談がある。

 国の労働政策審議会で「成果主義賃金制度」の議論が始まった。国や経営者には働く人の生命や健康を守る責務があることを重ねて指摘したい。ただ、何事も会社任せにばかりはしていられなくなったことも働く人は自覚しなければなるまい。

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