神奈川新聞 2014.07.25
県労働委員会の救済命令を受けて会見する布施木さん(左)と杉本さん=横浜市中区(写真省略)
新たな労働組合に加入した楽団員2人に対する解雇は不当労働行為に当たるとして、県労働委員会は24日、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(横浜市中区)に2人の解雇取り消しなどを命じる救済命令を出した。神奈川フィル側は不服申し立てを行う方針。
2人は、コントラバス奏者の布施木憲次さん(59)と杉本正さん(56)。ともに2012年4月12日、指揮者から「演奏技術が低い」と指摘を受けたり、公演先での発言で楽団の品位を汚したりしたとして、楽団から解雇された。
命令によると、楽団は、既存の労働組合とは別の組合分会で活動していた2人に対し、敵対的な姿勢を示すようになったと指摘。楽団役員が組合活動を否定する発言を行ったことなどから、「解雇は分会の弱体化を図ったものと推認できる」として、不当労働行為と認定した。
解雇理由についても、演奏技術の評価をめぐり慎重な手続きがなかった上、公演先の発言による具体的な影響も認められないとして、合理性はないと判断。解雇取り消しのほか、解雇後の賃金の支払いと文書の掲示を命じた。
2人が加入する労働組合が12年11月、県労働委に救済を申し立てていた。また2人は楽団員としての地位の保全などの仮処分を申し立てたが退けられ、横浜地裁に地位確認などを求める訴えを起こして係争中。
命令後に会見した杉本さんは「指揮者の評価だけで解雇されてしまっては、自主自立であるべきオーケストラの根幹が揺るがされる。神奈川フィルの歴史に泥を塗らないためにも、楽団の理事者は命令を真摯(しんし)に受け止めてほしい」と強調。布施木さんは「世界的なオーケストラを目指して活動してきた。楽団は公正な運営を」と求めた。
◆再スタートに冷や水 健全化へ「苦渋の決断」
財政難による解散の危機を官民から寄付金を集めることでくぐり抜け、4月から公益財団法人として再スタートを切った神奈川フィルハーモニー管弦楽団。7月には県立かながわアートホール(横浜市保土ケ谷区)の指定管理者に決まるなど前向きに進んできたが、今回の解雇無効命令で冷や水を浴びせられる形となった。
債務を解消して公益財団法人に移行しなければ存続できない状況に陥っていた同楽団では、2004年ごろから経営方針の刷新やコストカット、旧態依然の楽団員の意識改革などを進めてきた。また、県や県内財界などは「がんばれ!神奈フィル 応援団」を発足して寄付金を集め、存続を支えた。
楽団によると、こうした経過の中で「演奏態度が悪く改善要求に応じなかった」「楽団員へのいじめで退団に追い込んだ」など、2人の「度重なる就業規則違反」を問題視し、解雇に踏み切ったという。一方、今回の県労働委員会での争点は、2人が所属する労働組合の活動を楽団が阻害したとする「不当労働行為」だった。
同楽団は「2人が楽団員としての地位保全を求めた裁判では、楽団の主張は認められている。(解雇は)将来を見据えた真の健全化のための苦渋の決断。理解してほしい」と話している。