「すき家」の労働実態報告 “人間らしく働きたい” 若者の願いに応えるか

しんぶん赤旗 2014年8月27日

 牛丼チェーン最大手「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会の調査報告書は、過酷な労働実態を浮き彫りにしました。ぎりぎりの人員に低賃金長時間労働を強いて利益を追求する経営には、未来がないことを示しています。会社は、人間らしく働きたいと願う若者の声にこたえるか、注目されます。(田代正則)

(写真)2006年以来、すき家の残業代不払い問題や1人勤務問題を追及してきた首都圏青年ユニオン=2007年9月、東京・渋谷センター街(省略)

 調査の発端は3月、すき家店舗に一時閉店が続発したことでした。本紙が3月28日付で人員不足による閉店騒動をアルバイト店員の実態や首都圏青年ユニオンの増員や賃上げによる解決を求める声とともに報道した後、4月17日に運営会社ゼンショーが人員不足の事実を認め「労働環境改善」を約束。5月7日に第三者委員会を設置しました。

 7月31日に発表された第三者委員会報告書は、閉店続発の事情について、▽学生バイトが就職などで退職する時期▽手間のかかる新メニュー投入でサービス残業・長時間労働が増加▽2回の大雪で交代要員が出勤できず、帰宅できない店員の48時間勤務も多発し不満爆発―などを指摘しています。

 最多で1日159店舗が一時閉鎖しています(3月16日)。そのほかリニューアル(改装)のための閉鎖とされた店舗についても、報告書は「人手不足に対応する」ためだったとしています。

 報告書は、「一連の事象は、今回の店舗閉鎖の契機にすぎず、すき家はそれ以前から慢性的かつ深刻な労働力不足に陥っていた」と言います。

 労働基準法にもとづき残業時間を労使で取り決めた「三六(さぶろく)協定」では、一般社員は最長で月80時間(年6回)、年750時間まで残業させられるとされています。アルバイト店員は月60時間(年6回)、年630時間までです。

 ところが、「過労死ライン」とされる月80時間残業を超えて、月100時間以上も残業している人が、一般社員でしばしば100人を超え、アルバイト店員では常に数百人いる状況だったと報告。サービス残業の存在も指摘し、労働時間はもっと長かったと推測しています。

人件費 極限まで削る経営

 「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会の調査報告書には、「月500時間以上働いていた」「2週間家に帰れない」「20キロやせた」などの深刻な実態がならんでいます。

 「このような過重労働は、多数の社員を過労で倒れさせ、又は鬱(うつ)病に追い込むなど、社員の生命・身体・精神の健康に深刻な影響を及ぼしていた」とまで指摘しています。

無理強いる

 過重労働を生む原因のひとつとして、報告書は「数値に基づく収益追求と精神論に基づく労働力投入」をあげています。労働者に長時間過重労働の無理を強いて、人件費を極限まで削って利益を追求する経営姿勢に問題がありました。

 2011年4月〜14年5月の店舗数と正社員数の推移をみると、3年で1572店舗から1986店舗に増えたのに、正社員は340人から368人と、ほとんど変化がありません。

 同時期、正社員の退職者は345人にのぼります。その一方で、アルバイトは14年4月時点で2万9000人以上です。

 「ブラック企業」と批判を受ける大規模チェーンには、店舗に正社員が「名ばかり店長」の1人程度だという企業が少なくありません。すき家の場合はさらに劣悪で、店舗数に対して正社員数がはるかに少なく、ほとんどアルバイトなど非正規雇用労働者で運営しています。

 正社員は、広域の複数店舗の管理で「電話が一日中かかってきてプライベートがない」状態となり、アルバイト店員にも1人勤務(ワンオペ)を含む長時間過重労働が押し付けられます。

 売り上げが小さいと見込まれる時間帯は1人勤務体制となります。すき家の作業マニュアルの標準時間は、もっとも能力の高い従業員を基準に最速時間が記載されているため、ワンオペの労働環境は過酷です。労働基準法に定められた休憩時間を確保できず、トイレにすら行けません。

 違法残業や休憩なしなど、労働基準監督署から受けた是正勧告は、12年度から約2年間で64件にのぼります。

改善策提言

 会社は、改善策として七つの地域ごとに分社化すると発表しましたが、報告書は「単に組織の大枠を変更するものに過ぎず、…問題点が自動的に解消されるものではない」としています。

 報告書は労働環境改善に向け、▽一定時間以上の長時間労働の絶対的禁止をルール化し、店を閉めることになってもこのルールは守らなければならない▽サービス残業防止のため、15分単位の労働時間管理を改める▽投入労働時間に余裕をもたせ、深夜時間帯の複数勤務体制を確立する―などを提言しています。

1人勤務即時廃止を 首都圏青年ユニオン声明

 牛丼チェーン「すき家」の従業員が加入する首都圏青年ユニオンは15日、声明を発表しました。会社に対しては、店舗の1人勤務(ワンオペ)の即時廃止と労働条件の改善を要求し、労働基準監督署に対してもゼンショー本社へ調査(捜査)を行うべきだとしています。

 青年ユニオンは、調査報告書で指摘されたような実態を突きつけて解決を要求し続けています。しかし、今年7月11日の段階でも会社側は「すき家全店におけるもの(要求)であれば、団体交渉には応じない」と回答していました。

 会社が9月をもってワンオペ全面廃止の方針を出したことについて、「すき家で働く多くの労働者の要求と運動の成果」だと評価。しかし、これまで会社が「ワンオペ廃止」を繰り返し表明しながら放置してきたとして、団体交渉に応じて確実に改善するよう要求しています。

 労基署の是正勧告などは、小川賢太郎CEO(最高経営責任者)に報告がなされており、会社は警察庁へもワンオペ解消を約束していたと指摘。声明は、「現在に至るまで抜本的に対応できなかったことを考えれば、ゼンショー自身に自浄能力はない」と厳しく批判しています。

 厚生労働省が主導してゼンショー本社への立ち入り調査(捜査)をおこない、ゼンショーと小川氏への刑事罰も含む厳しい行政対応をすべきだとしています。

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