子どもの貧困対策、政府大綱が決定 実効性に不安の声も

朝日新聞 2014年8月30日

写真・図版:子どもの貧困対策会議であいさつする安倍晋三首相(右から2人目)=29日、首相官邸、越田省吾撮影(省略)

 政府は29日、子どもの貧困対策の「大綱」を閣議決定した。親から子への「貧困の連鎖」を防ぐために、初めて重点政策をまとめたものだ。ただ数値目標はなく、新規の取り組みも乏しい。関係者からは「不十分」との声が出ている。

 「子どもたちが夢と希望をもって成長していける社会の実現を目指していく」。安倍晋三首相はこの日開かれた子どもの貧困対策会議でこう述べた。

 16・3%。18歳未満の子どもの貧困率(2012年)は過去最悪を記録した。貧困率とは、世帯収入から子を含む全員の所得を仮に計算し、真ん中の人の所得の半分に満たない人の割合だ。大綱は、貧困の連鎖を防ぐ対策を国の責務とする「子どもの貧困対策法」(1月施行)で策定が義務づけられ、「教育」「保護者の就労」など4分野の支援策をまとめた。教育分野では、学校を支援の「プラットフォーム」にするとうたう。スクールソーシャルワーカーの増員、卒業後の収入に応じて返還額が抑えられる所得連動型奨学金の検討などを打ち出した。

 こうした方針をふまえ、文部科学省は、困窮家庭などを支援するスクールソーシャルワーカーをいまの約1500人から5年後に1万人に増やす目標を掲げ、来年度予算の概算要求に盛り込んだ。

 母子家庭の母親らに対する就労支援にも力点を置く。日本のひとり親家庭の貧困率は54・6%(12年)で、世界的にみても極めて高いからだ。

 ただ全体として既存の政策が並んだ印象で、純粋な新規は資格取得などに向けた親の学び直し支援など数少ない。ひとり親家庭の親らに支給される児童扶養手当(子1人の場合、最大月4万1020円)の増額、返済がいらない給付型奨学金の創設などは盛り込まれなかった。これらは有識者の検討会が6月に提言していたものだ。財源の見通しが立たないことが主な理由という。

 大綱は、生活保護世帯の子どもの高校進学率(13年90・8%)など、25の統計データを、支援効果を測る指標に決めた。しかし数値目標は入らなかった。

 市民団体「『なくそう!子どもの貧困』全国ネットワーク」は、「23年までに子どもの貧困率を8%に下げる」などの数値目標を入れるべきだと要望していた。政府関係者は「貧困率には現金給付ではない生活支援などのサービスが反映されづらい」などとし、数値目標はなじまないと説明する。

 全国ネット共同代表の平湯真人弁護士は「政策の達成度に議論の余地が残り、あいまいになってしまう」と指摘、政策の実効性を持たせるために数値目標は必要だと主張。「(大綱の)経済的支援やひとり親家庭の支援は不十分だ」と批判する。

 大綱には、関係者の意見を聞いて政策効果を検証する仕組みや、おおむね5年をめどに中身を見直すことも盛り込まれた。「STOP!子どもの貧困全国ユースミーティング」実行委員で、自らも奨学金を借りて学ぶ中央大3年の高橋遼平さんは訴える。「達成度を検証する時には、当事者や支援者の声もぜひ聞いてほしい」(畑山敦子)

■子供の貧困対策大綱に盛り込まれた主な対策

《教育の支援》

・スクールソーシャルワーカーの配置充実

・返済月額が所得に連動する奨学金制度の導入

《生活の支援》

・保護者の自立支援

・児童養護施設退所後の児童の進学や就職のアフターケア

《保護者の就労支援》

・ひとり親家庭の親の就業支援

・保護者の学び直し支援

《経済的支援》

・ひとり親家庭の支援施策についての研究

・両親が離婚した子どもの養育費の確保支援

《子どもの貧困に関する調査研究》

・子どもの貧困に関する新たな指標の開発

■対策の効果を測る主な指標

・生活保護世帯の子どもの高校進学率(2013年90.8%)

・生活保護世帯の子どもの大学進学率(同32.9%)

・スクールソーシャルワーカーの配置人数(13年度1008人)

・母子家庭の母親の正社員就業率(11年度39.4%)

・子どもの貧困率(12年16.3%)

・ひとり親家庭の貧困率(同54.6%)

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