毎日新聞 2014年09月07日 10時25分(最終更新 09月07日 18時31分)
元タクシー運転手の男性の元に届いた企業年金の減額通知(画像は省略)
企業年金の一つ、厚生年金基金の解散ラッシュが始まった。2012年2月に発覚した旧AIJ投資顧問による年金消失事件を受け、今年4月、存続する526基金の大半を5年で廃止させる改正厚生年金法がスタートしたためだ。しかし、基金廃止後の受け皿には「穴」も目立つ。【遠藤拓、中島和哉、佐藤丈一】
◇支給カット 生活直撃も
千葉県の元タクシー運転手の男性(78)の元に7月下旬、約30年加入していた「日本交通連合厚生年金基金」から封書が届いた。中身は「支給停止割合変更通知書」。公的年金も合わせて月に約12万1000円の年金を、8月から約5000円カットすることを告げていた。1969年設立の同基金は今年5月末、国に解散を申請し、8月1日の解散が認可されていた。
妻、娘と暮らす男性の生活費は、公的年金の減額分も含めこの1年で月に9000円近く減った。暖かい日は風呂を沸かさずシャワーにし、1日1本のささやかな楽しみだった「第3のビール」も我慢する日が増えた。「基金の上乗せは退職金代わりだったはず。なくなるとは思いもよらなかった。納得いかない」
厚生年金基金は、高度経済成長期の66年に制度ができた。従業員は公的年金に上乗せされる企業年金の掛け金に加え、本来は国に納める厚生年金保険料の一部も基金に納める。基金は掛け金と厚生年金保険料を合わせて運用し、企業年金分(月数千〜1万6000円程度)だけでなく、厚生年金の一部も国に代わって(代行)支給する。多額の資金を運用できるようになる企業と、基金を天下り先にしたい官僚の思惑が合致し、ピーク時は1900近い基金が乱立した。
ところが、バブル崩壊後は上乗せ分どころか、国に代わって払う厚生年金分の資金さえ不足する「代行割れ」基金が続出した。大手はいち早く他の企業年金に移った会社が多かったものの、中小には難しかった。基金の解散には厚生年金の支給に必要な資金を全額国に返す(代行返上)必要がある。中小には解散したくとも、カネを工面できない企業が多かったのだ