朝日デジタル 2014年10月5日
岡林佐和、編集委員・沢路毅彦
図版:マタハラ4類型(省略)
写真:交流会では、訴訟の代理人から裁判の経緯について聞いた。左から代表の小酒部さやかさん、圷由美子弁護士=都内(省略)
安倍政権が「女性が輝く社会」を掲げるあしもとで、職場では妊娠や出産を理由にした違法な解雇や契約打ち切りなどの「マタニティー・ハラスメント(マタハラ)」が絶えない。被害にあった女性たちがつながり、声を上げ始めた。
■上司が説教「僕の妻は…」
契約社員として雑誌の編集をしていた小酒部(おさかべ)さやかさん(37)=神奈川県=は妊娠中、会社の上司にこう告げられた。「契約社員は時短勤務ができない。どうしても仕事したいなら、アルバイトで続けるしかない」「僕は妻の妊娠が分かったとき、すぐに仕事を辞めさせた。君の旦那さんは何を考えているのか」
特集:マタニティー・ハラスメント
切迫流産で1週間休んだとき、上司は自宅に来て、契約更新をあきらめるように迫った。「精神的にも不安定なのに仕事か妊娠か選択を迫られた。酷だった」とふり返る。
その後、流産した。半年前に続いて2度目だった。「次に妊娠したら安定期まで休ませてほしい」と伝えると、人事部長に「仕事に戻るなら、妊娠は9割あきらめろ」と言われた。退職せざるをえなかった。
男女雇用機会均等法では、妊娠中の女性に対し、会社は時短勤務や時差通勤などで配慮しなければならない。妊娠を理由にした解雇や契約打ち切り、降格などの不利益な取り扱いも禁じる。
「管理職に法律への理解がないことにがくぜんとした」と小酒部さん。泣き寝入りしたくないと労働審判を申し立て、納得のいく形で解決できた。上司との面談を録音した記録などが役立ったという。
会社と争うなかで、自分と似た体験談をインターネットで探した。しかし、求める情報はほとんどなかった。妊娠・出産期に被害にあうマタハラは、乳児を抱えている人も多いため、子育てに追われ、被害者が声を上げにくいからだ。
被害者どうしが体験を共有しあい、マタハラをなくすための情報発信ができないか。小酒部さんがこう考えていたとき、女性の労働問題に取り組む圷(あくつ)由美子弁護士と出会った。圷弁護士の紹介で、マタハラ被害にあった女性2人と知り合い、7月に「マタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラnet)」を立ち上げた。
■最高裁、初の判断へ
9月18日、妊娠を理由に不当に降格させられたとして、広島県の理学療法士の女性が、職場に降格処分の取り消しなどを求めた裁判の弁論が最高裁であった。マタハラnetの女性たちは弁論を傍聴し、交流会を開いた。
原告の女性は1994年に広島市内の病院に就職。訪問や病院内のリハビリ業務などに携わっていた。10年で副主任職に昇格したが、2008年に妊娠し、負担の少ない病院内の勤務を希望して異動した際、副主任職を外された。
妊娠中の女性が希望すれば、事業主は業務負担を軽くする義務があり、それに伴い降格することは禁じられている。一審、二審ともに「役職を解いたのは、病院の人事権の範囲内」と女性の訴えを退けたが、最高裁が弁論を開いたことで二審の判断が見直される公算が大きい。
交流会では「どうしても許されないという気持ちで闘ってきた」という女性の言葉が紹介された。最高裁の判決は今月23日に言い渡され、マタハラについて最高裁が初の判断を示す。
圷弁護士は「解雇や降格の理由について、会社は本人の能力不足だなどと主張してくる。妊娠や出産が理由であることを労働者側が原則立証しなければいけないのが難しい」と話す。マタハラをなくすためには、男女雇用機会均等法や育児介護休業法の改正が必要だと考えており、マタハラnetでは今後、こうした政策提言もしていきたいという。
マタハラnetのホームページは、http://mataharanet.blogspot.jp(岡林佐和、編集委員・沢路毅彦)