東京新聞 2014年12月13日 夕刊
アベノミクスの成果の一つに、雇用の増加が挙がる。だが増えているのは非正規雇用だけで、正規雇用は減っている。経営者の判断一つで首を切られてしまう非正規雇用で働く人たちは、先行きの見通せない不安がつきまとう。「企業ばかりでなく、働く人の立場を重視した政策を実行してほしい」と、衆院選の行方を見守っている。 (小松田健一)
浜元盛博(もりひろ)さん(36)=千葉県浦安市=は今年二月末、一通の手紙を受け取った。「契約が三月末で終了する」とあった。新たな契約の打診はなかった。事実上の解雇通告だった。
雇用契約を結んだイベント会社を通じ、二〇〇五年から同市の東京ディズニーシー(TDS)のショーに出演していた。衣装に身を包み主役を盛り上げる「パフォーマー」が役回り。契約は一年単位だった。「更新してもらえるだろうか」と毎年、感じていた不安が現実になった。
非正規雇用の仲間と結成した労組を通じ、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立て、イベント会社側と和解が成立したものの納得できない自分がいた。「再び舞台に立ちたい」とTDSの運営会社「オリエンタルランド」に、直接雇用を求めて団体交渉を申し込んだが、拒否された。
同社は取材に「弊社との間に雇用関係はなく、労働組合法の定める使用者には当たらないことから、交渉に応じる義務はないものと考えている」とコメントした。
浜元さんは今もアルバイトでしのぐ。「首切りが当たり前の社会にしたくない」。だが現実は、浜元さんの願いとは逆方向に進んでいる。
安倍政権が発足して二年。雇用は百二十五万人増えた。だが内訳をみると、正規労働者は四十二万人減で、より解雇しやすい派遣などの非正規労働者が百六十七万人増だった。
「非正規雇用が際限なく広がってしまう」。浜元さんも加入する労組「なのはなユニオン」(同県船橋市)委員長の鴨桃代さん(66)は今の流れを心配する。
雇用を支える中小企業の足元が揺らいでいる中、経営者の厳しさは、比較的安定しているとされてきた正社員にも向かう。
今年八月、鴨さんは千葉県内にある中小企業との団体交渉に立ち会った。手当の一方的カットに抗議する社員に対し、経営側が「彼が毎月二十五万円のコストをドブに流している」と発言した。「人間をコストと言い切るなんて…」。鴨さんはあぜんとした。
「政治が今やるべきことは、雇用安定と賃金の底上げだ。そうしなければ、社会を支える基盤が崩れてしまう」