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朝日デジタル 2015年3月13日
写真・図版 マタハラ対応どう変わる?(省略)
妊娠・出産を理由に、降格や解雇などをする「マタニティー・ハラスメント」(マタハラ)が後を絶たない。これまでは働き手が企業側の違法性を立証しなければならない実態だったが、厚生労働省は、妊娠・出産と降格などの時期が近ければ「違法」と原則判断するように全国の労働局に通達を出した。マタハラをめぐる対応は変わるのか。
■マタハラの立証、負担減
育休からの職場復帰を間近に控えた昨年春。都内に住む30代の女性は、勤め先の上司から自宅近くの喫茶店へ呼び出され、「率直に言って、戻るところはない」と告げられた。
勤めていた会社で女性社員が出産するのは初めてだったが、半年間の産休・育休をとるまでスムーズに進んでいただけに、言葉を失った。理由をたずねても、「社長の気が変わったから、戻すことはできない」の一点張りだった。
労働局に駆け込んだが解決せず、弁護士に相談して会社側と争うことになった。会社側は、解雇の理由に「能力がない」「勤務態度が悪い」などを挙げてきた。
女性は「出産が理由だと証明するために、会社側との電話のやりとりの録音を書き起こし、証拠として出すなどとても苦労した」と話す。昨秋、出産を理由にしたマタハラだという女性の主張が裁判所で認められた。ただ、この職場で働き続けるのは難しいと考え、いまは別の会社で働く。
マタハラをめぐって各地の労働局に寄せられた相談は、2013年度は3371件と、前年度より2割弱増えた。マタハラ被害では、会社側が解雇などの理由について「本人の能力がない」などを理由にするケースも少なくない。
男女雇用機会均等法は「妊娠・出産を理由にした」降格や解雇、契約打ち切りなどの働き手にとって不利益になる取り扱いを禁じている。違法と判断されたくない会社側は、出産や妊娠との因果関係を否定してくるという。
■最高裁判決がきっかけ
厚労省は1月、全国の労働局にマタハラに関する通達を出した。
内容は、女性が降格や解雇など不利益な取り扱いを受けた場合、その前に妊娠や出産をしていれば、原則として因果関係があると判断する、というものだ。
業務上の必要性があるなどの例外規定もつくった。もし降格や解雇などが例外にあたるならば、会社側がそれを証明しなければならない。
この通達のきっかけは、昨年10月の最高裁判決だ。妊娠を理由に不当に降格させられたとして、広島県の女性が降格は違法だなどと訴えた裁判で、最高裁は、妊娠中に負担の少ない業務に移ったことをきっかけに降格させることは、原則「違法」とした。
この通達のポイントは、マタハラにあたるかどうかについて、会社側の意図に関係なく、降格や解雇などの不利益な取り扱いと、妊娠や出産との「時期が近いかどうか」で、客観的に判断する点だ。その具体的な時期について、厚労省は近く決める。
また、厚労省は来年度、女性を対象にマタハラやセクハラにあった経験をたずねる初めての本格的な実態調査を実施する。調査を踏まえて、マタハラ対策を強めていく方針だ。
妊娠・出産期に被害を受けるマタハラは、小さい子どもの世話に追われる人もおり、もともと被害者が声を上げにくい構図がある。
女性の労働問題に詳しい圷(あくつ)由美子弁護士は「これまでは因果関係を被害者側が立証しなければならないことで、泣き寝入りしたり、裁判所で負けたりすることも多かった」と指摘する。「原則『違法』とされたことで、女性が声をあげやすくなる」と期待する。また「政府は女性の活躍推進を掲げているのだから、女性が妊娠・出産後も仕事を続けられるようにしっかり取り組む企業を応援してほしい」とも話す。(岡林佐和)
■マタハラかも?と思ったら
各都道府県の労働局雇用均等室や、自分が勤める会社の労働組合、個人で加入できる労組に相談する方法がある。日本労働弁護団は各地で定期的に電話相談を受け付けており、女性弁護士によるホットラインもある。アドレスは、http://roudou−bengodan.org/hotline
被害者でつくるマタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラnet)のホームページ(http://mataharanet.blogspot.jp)には、被害体験や法律面でのアドバイスが掲載されている。