税の再分配機能、日本はなぜ弱いのか 格差問題を考える

http://www.asahi.com/articles/ASH3S4T0WH3SULFA00V.html
朝日デジタル 2015年3月26日

写真・図版:各国のジニ係数の改善度と所得に対する税負担率(省略)
 
 「所得税は、昭和60年代ぐらいから大幅な累進緩和をしてきた。再配分の機能が低下した、という指摘がなされている」。麻生太郎財務相は10日の国会答弁で、そう語った。

 持てる者から取り、持たざる者に分配する。そんな再分配は、格差の広がりや固定化を防ぐために、税や社会保障が担っている大事な役割だ。しかし、日本の税は、その再分配機能が弱いといわれてきた。

 たとえば、2009年度の政府の経済財政白書は、「我が国は、税による再分配効果が極めて小さい」と指摘した。白書は、所得の偏り具合を表す指標(ジニ係数)が再分配でどれぐらい改善するかを、税と社会保障の効果に分けて外国と比較している。制度の違いから単純に比べられない面はあるものの、日本の税の再分配力は当時の経済協力開発機構(OECD)21カ国の中で最低だった。

 背景には、麻生財務相が触れたように、所得が増えると税率も上がる「累進課税」が緩められてきたことがある。所得税の最高税率は83年まで75%もあったが、その後は景気のテコ入れや消費税導入などで減税が続き、99年に37%に低下。今年、8年ぶりに引き上げられて45%になった。

 ほかにも考える材料はある。一例が、所得1億円を超えると実際にかかった税率が低くなる、国税庁の納税データだ。

 1億円超の高所得者は、株の配当や売買益など、金融分野の所得が多いことが背景にある。こうした金融所得は給与などの累進税率と違って税率が20%に抑えられている。しかも03〜13年は「貯蓄から投資へ」を促すために10%に半減され、14年に20%に戻った。

 再分配機能の弱まりが指摘されるのは、資産にかかる税も同じだ。相続税は、かつて最高税率が75%だったが、03年に50%まで低下。今年1月から、55%に引き上げられた。

 いま、税の再分配機能を回復させようと、豊かな層への課税強化が動き出している。麻生財務相は国会答弁で「再配分機能の回復のための見直しの多くは今年1月以降。影響を、よく見ていきたい」とも述べた。

 一方、最近は景気拡大に向けて消費を活発にするため、お年寄りがまとまった資産を子や孫に非課税で生前贈与できる制度の拡充も進む。これが再分配の「抜け道」になり、世代を超えた格差の固定化につながる、との指摘も出ている。(吉川啓一郎)

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