朝日デジタル 2016年5月6日分
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写真・図版: 三菱自動車の水島製作所(手前)。国内有数の工業地域「水島コンビナート」の一角を占める=岡山県倉敷市、朝日新聞社ヘリから、高橋一徳撮影(省略)
三菱自動車の燃費偽装で、下請け企業が苦境に立たされている。軽自動車の生産を止めている水島製作所(岡山県倉敷市)の周辺では、操業停止が下請けに波及し、派遣社員の仕事も失われつつある。三菱自と取引がある企業は全国に多数あり、影響の広がりが懸念される。
水島製作所では、6日も人影はまばらで、門の上に飾られた生産停止中の軽「eKスペース」が静かに雨に打たれていた。
そこから約10キロ離れた3次下請け部品工場。田畑に囲まれた自宅脇の倉庫に、納品するはずだった製品の箱が積み上がっていた。
「こんだけ作ったのはええが、誰か補償してくれるんじゃろうか」。70代の男性経営者はため息をつく。4月20日の偽装発覚翌日から受注も納品も止まった。
30年ほど前に会社を立ち上げ、自動車部品は三菱一本で仕事をしてきた。2次下請けが成型した軽自動車の内装やエンジン周りの部品に、スポンジ状の防音材を手作業で貼り付ける。利益は1個30円ほどで、1日千個前後を納めてきた。
従業員3人では手が足りず、近所の女性10人に内職を頼んでいた。「この辺りは、そんだけ三菱系の仕事のすそ野が広いんよ」。問題発覚後、内職を断ると、「一日でも早う仕事を持ってきて」と言われた。「いつまでも生産が再開されなんだら、どうなるんじゃ」と経営者の不安は募る。
三菱自の部品を数十年作ってきた倉敷市の3次下請けも生産を止めている。専務(58)によると、売り上げの9割が三菱自だった。問題発覚後、溶接した部品に油をふきかけ、空気が入らないようにポリ袋とラップのようなフィルムを巻いた。「とりあえずさびんようにしとるだけ。ほかのこと、できんしな」
ログイン前の続き4月末、納入先の担当者から「会社をやめる時は早く言ってくれ」と伝えられた。「しわ寄せはいつも下にくる」と漏らす。
同市の2次下請け会社の専務(60)は「こたえてる。会社がどこまでもつかわからん。見通しがたたんのが痛い」とため息をつく。売り上げの半分を金属部品の加工など三菱自関連が占める。偽装公表の翌日、1次下請けに製造を止めるよう言われ、社内に加工前の材料が置かれたままだ。
すでに下請けで働く派遣社員に影響が出つつある。
同市の人材派遣会社は、部品メーカー5社から「5月末に派遣契約を解除したい」と言われた。派遣した約40人の大半がいまの仕事を失う。50代の社長は「派遣先に休業手当をどの程度負担してもらえるだろうか」と心配する一方、「今回はお互いに被害者。強くは言えない」と悩む。
1次下請けで働いていた同市の派遣社員男性(48)は自宅待機が続く。かつて水島製作所に正社員として勤めていた頃、リコール隠しが発覚し、ボーナスが消えた。会社を挙げて不正防止に取り組んできたと思っていた。
「もう三菱は信用できん」。すでに派遣会社から半導体会社の仕事を紹介された。水島で生産が再開されても戻るつもりはない。(玉置太郎、新田哲史)
■1次・2次下請け、計41万人雇用
影響は岡山県内だけでなく全国に及びそうだ。帝国データバンクの4月28日時点の調べでは、三菱自の下請け企業は、直接取引する1次と、そこと取引する2次だけで国内に7777社ある。働く人は約41万2千人に上る。全体の6割強は年間売上高が10億円未満で、中小企業も多い。
都道府県別で社数をみると、SUV(スポーツ用多目的車)などをつくる名古屋製作所がある愛知県が1409と最多。三菱自が本社を置く東京都の1228、大阪府の1009、広島県の570、岡山県の509などと全国に散らばる。
帝国データによると、岡山県では三菱自との取引の依存度が高い企業がめだち、生産停止といった影響が出始めている。三菱自がつくる軽自動車は4月は前年の半分ぐらいしか売れておらず、問題対象車の生産再開の見通しもたっていない。
自動車は1台あたり2万〜3万点の部品が必要で、多くの企業が関わる。三菱自のような大手を頂点に下請けが連なるピラミッド型の産業構造だ。大手が止まると末端まで問題はつながっていく。帝国データは「影響は今後、全国的に広がる恐れもある」(東京支社情報部)とみている。(新宅あゆみ)
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〈三菱自動車水島製作所〉 三菱重工業が1943年に開設した航空機工場が前身。岡山県倉敷市の水島コンビナートにある。2015年度の年間生産台数は約30万台で、大半が軽自動車。00年度は50万台以上だったが、リコール隠し問題やリーマン・ショックなどで減少している。いまの社員は約3500人。三菱自はそのうち軽の生産を担う約1300人に自宅待機を命じ、労働組合に賃金削減を示した。地元経済との関わりが深く、倉敷市は関連中小企業向けに緊急の融資制度を設けた。