過重労働放置が経営直撃  時代の変化に追い付けず 過労自殺で電通社長辞任表明

共同通信 2017年12月28日
 

女性新入社員の過労自殺から1年。厚生労働省が28日、労働基準法違反容疑で電通
本社などを書類送検し、石井直(いしい・ただし)社長は引責辞任に追い込まれた。2
5年前に起きた過労自殺で再発防止を誓った巨大企業はいまブラック企業の象徴として
厳しい批判にさらされている。滅私奉公が美徳だった時代は大きく変わり、長時間労働
の放置は経営の根幹を揺るがしかねない。

 ▽二度と
 「すべて過剰だった。企業風土の悪い面に経営が手を打てなかった」。28日夜の緊
急記者会見。来年1月の辞任を表明した石井社長は、再び悲劇を招いた電通の体質に言
及した。

 同席した副社長は自殺した高橋まつりさんの遺族が訴えるパワハラ被害について「新
人への仕事の与え方として不適切な部分があった」と認めたが、上司の言動についての
具体的説明は拒んだ。

 電通にとって過労自殺は初めての経験ではない。1991年8月に自殺した入社2年
目の男性社員の遺族と法廷闘争を繰り広げた電通は、2000年に最高裁で敗訴。和解
成立後には「二度と起こらないよう努力する」と宣言していた。

 この社員の自殺はバブル終末期と重なる。過労死はしだいに社会問題化し、01年に
は厚労省が労災の認定基準を大幅緩和。14年には過労死等防止対策推進法が施行され
、長時間労働に向けられる視線は厳しさを増した。

 経済界も流れに逆らえない。今年11月には、経団連が安倍政権の「働き方改革」に
呼応する形で「過労死は絶対あってはならない」と意識改革を求める要請文書を会員企
業に出している。

 ▽不眠不休
 だが日本人の働き方が急に改善したとはいえそうもない。経済団体首脳は「電通は氷
山の一角で、同じような企業がたくさんあるのではないか」と指摘。広告業界関係者は
「不眠不休の古い働き方は他でも常態化している」と説明する。

 ある広告大手の中堅社員は「平日はクライアントと飲み会、土日は接待ゴルフ。毎日
飲んで歌ってどんちゃん騒ぎしている。長時間労働の是正は業界そのものの否定だ」と
言い切る。

 その広告業界で成長を続けているのがインターネット広告の分野。別の広告会社OB
は「ネットの反応を見た広告主から改変を求められ続け、作業が延々続く。若い優秀な
社員にしわ寄せが行っている」と実情を明かす。高橋さんの配属先もネット広告担当だ
った。

 ▽黒企業
 日本企業はいま、記録的な人手不足に見舞われている。就職活動する学生の意識も大
きく変わり、「ブラック企業」の風評は、企業の採用活動に致命的なダメージを与えか
ねない。

 高橋さんは自殺前、ツイッターで「体も心もズタズタ」などと発信していた。電通関
係者の一人は「ツイッターの拡散で一気にブラックのレッテルが貼られた。大衆のトレ
ンドを操っているという感覚があったトップはこれほどのバッシングを想定していなか
っただろう」と話す。

 過労死問題に詳しい森岡孝二関西大名誉教授は「日本を代表する企業が送検されたこ
とで、『やはり長時間労働はおかしい』との意識が社会全体で共有されるようになった
」と、今回の事件の象徴的意味を強調する。

 世論に背を押され異例のスピードで進む捜査。森岡氏は「これまで厚労省の指導、監
督は十分でなかった。残業時間に法的な上限を設けるなど具体的な再発防止策を強める
べきだ」と指摘している。

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