<なくそう長時間労働>残業の上限は 「月45時間」健康守るライン

 東京新聞 2017年4月17日

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201704/CK2017041702000173.html

写真・図表は省略

政府は、青天井だった残業時間の上限を「月100時間未満」と決め、法制化に向けた議論を始める。ところで、現行の残業の上限時間はご存じ? 月45時間。厚生労働省によると、これを超えて残業すると、脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるという。「45時間」は、働く人の健康を守るラインでもある。 (寺本康弘)

「お問い合わせ、ご依頼は十七時までとさせていただきます。残業抑制へのご協力お願いします」。東京都目黒区のオフィスビル。メンタルヘルスケア事業を展開する「アドバンテッジ リスク マネジメント」のカウンターに置かれた掲示だ。

同社の月平均残業時間は約十時間。五年前と比べて半減した。人事部長の小山美佳さんは「精神面の健康を支える企業。ワークライフバランスのお手本でありたい」と狙いを話す。これで満足はせず、今後も残業削減に取り組むという。

同社は、残業が増えた社員がいると、すぐ直属の上司に改善を求める仕組みを導入。過重労働に起因する休職者はここ数年ゼロという。

しかし小山さんは「国の月四十五時間という基準はやむを得ない」とも話す。注文が集中し業務量が増えた場合、残業しなければならない場面もあるからだ。小山さんは「ただ、これ以上残業すると、社員の負荷も高まる。実感としては、月四十時間を超えたあたりから、現場に疲弊感が出始める」とする。

そもそも労働時間は労働基準法で一日八時間、週四十時間までと決められている。残業は例外の位置づけで、労使が合意して協定を結ばないと残業できない。同法三六条にこの定めがあり、「三六(さぶろく)協定」と呼ばれる。一カ月の上限は四十五時間だ。ただ繁忙期は「特別条項」を付けて協定を結べば制限なく残業させられる。

一方、政府の働き方改革実現会議は先月、「月四十五時間」を法律に明記すると決めた。特別条項を結んだ場合でも上限を設け、「月百時間未満」とした。
 では月四十五時間にどんな意味が込められているのか。二〇〇一年の厚労省専門検討会の報告書は、脳・心臓疾患の発症と、疲労の蓄積の関連性を指摘。残業が月四十五時間を超えない場合、業務と発症との関連性は弱いとする。

週休二日の労働者が残業を月四十五時間した場合、一日平均は二時間程度。通勤時間にもよるが、食事や入浴などの時間を差し引いても、一日七、八時間の睡眠を確保できる計算になるという。となると一日で疲労回復も可能で、業務と発症との関連は弱くなる、と検討会は結論づけた。

過労死防止学会代表幹事の森岡孝二関西大名誉教授(企業社会論)は健康を守るラインとしての残業上限四十五時間に理解を示す。一方で「残業は一時的であるべきだ。本来は一日八時間労働が基本」とする。働いて帰って寝るだけでなく、家事や余暇、介護、子育て、地域社会への参加の時間も必要だからだ。

森岡教授によると、現状の特別条項付き三六協定では、上限時間が百時間に達しない企業がほとんどという。政府が法制化を目指す残業上限「月百時間未満」については、「『法律で許されているから』と、上限を百時間近くに引き上げる企業が増える」と批判する。

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