残業代ゼロ「容認とは思わず」 連合・神津会長に聞く

 聞き手・贄川俊、千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦
朝日DIGITAL 2017年8月9日
写真・図版:インタビューに答える連合の神津里季生会長=東京都千代田区、池永牧子撮影(省略)
 「残業代ゼロ法案」と批判してきた高度プロフェッショナル制度(高プロ)を巡って混迷を極めた連合。唐突な執行部の判断に対し、組織の内外から今なお疑問の声が尽きない。混乱の背景に何があったのか。続投が内定した神津里季生(こうづりきお)会長に聞いた。
「残業代ゼロ」容認、連合見送りへ 批判受け方針再転換

――高プロについて政府、経団連と「政労使合意」を結ぼうとした。連合が思い通りの合意を結べる可能性は低かったと思う。見通しが甘かったのでは。
 「そうは思わない。最低限必要なことを要請して、筋を通すべきだと考えた」
 ――高プロの政府案に対して働き過ぎの防止策を講じる部分的な修正を求めたのに、高プロに反対したまま政労使合意を結ぶのはわかりにくい。「条件付き容認」と言わざるを得ない。
 「修正に関する合意を目指したのであって、僕らは(高プロを)『容認』したとは全然思っていない。容認と報道されたが、それは誤解だ。『容認撤回』とも書かれたが、容認していないのだから撤回のしようもない」
 ――合意を結べば、連合が法案を容認したと見られる。そのリスクを考えなかったのか。
 「『1強』政治の中で、我々としてどう対処していくかを考えていた。もちろんリスクを考えながらやったが、念には念を入れる必要があった」
 ――了解できるような合意文書はできていたのか。
 「政労使合意の前文に、法案全体の早期成立を目指すように読める文言があり、それはダメだと交渉していた。文案としては詰まっていなかった」
 ――7月13日に首相官邸を訪ね、安倍晋三首相に修正を要請した。前文の案が出てきたのはその前か。
 「後だ」
 ――合意を前提に、首相に要請に行ったのでは。
 「(要請が)儀式というやり方はあると思うが、今回はそうじゃない」
 ――官邸に行った時、政労使合意に至らない可能性はあると思っていたのか。
 「越えちゃいけない一線は越えない。それは当然あった。『制度は必要ない』と総理にも話したし。合意と引き換えに、連合に対する信用力を失うことはありえない。1回けじめをつけようと思い、協議を打ち切ることにした」
■責任問う声「聞いていない」
 ――高プロを巡る一連の経緯は、事務局の「独走」だと指摘されている。最終的に会長が決断したのか。
 「そうだ。独走ではない」
 ――逢見(おうみ)直人事務局長が民進党議員に対し、「(政労使合意が)組織内で受け入れられないなら、執行部が退陣になる可能性がある」と説明したそうだが。
 「それは思い余ってのことだと思う。そのくらい使命感を持ってやっているということだ」
 ――会長と事務局長の意思疎通はとれていたのか。
 「どういう文脈で逢見さんが言ったのか、詳しく聞いていないが、要請についての基本的な思いは共有している」
 ――政労使合意の見送りは、責任問題にならないということか。
 「そうだ。財界や政界で辞めるべきだと言ってる人がいるようだが、誤解に基づくもので、心外だ」
 ――逢見氏が専従の会長代行に内定した。狙いは。
 「連合としてこの先10年は通用する政策をつくるタイミングにきている。逢見さんは労働界の中で政策を語らせればナンバーワンだ。具体的な役割分担はこれから決めるが、中心的な存在としてやってもらう」
 ――会長留任が内定した。役員推薦委員会は一連の経緯と人事は関係ないとしているが、執行部の責任を問う声はないのか。
 「会議では聞いていない。直接指摘してもらえれば、いつでも説明する」
 ――政府は、高プロと残業時間の罰則付き上限規制を一本化した労働基準法改正案を今秋の臨時国会に出す方針だ。法案にどう臨むか。
 「一本化の必要がないことを、まず労働政策審議会で言うことになると思う」
 ――高プロへの反対姿勢を明確にするのか。
 「誤解を払拭(ふっしょく)するためにもその必要があると思う。これから対応を詰める」(聞き手・贄川俊、千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦)
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 〈こうづ・りきお〉 東大教養学部を卒業後、1979年新日本製鉄(現新日鉄住金)入社。84年に労組の専従になり、鉄鋼などの労組でつくる産業別組織「基幹労連」の中央執行委員長、連合事務局長などを経て2015年10月から現職。今年10月以降の続投が内定した。90年から3年間、バンコクの日本大使館に勤務した経験も。東京都出身。61歳。

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