「命を犠牲に働かないで」 遺族ら中高生に出前授業 国が支援、過労死防止

 2017年04月22日 共同通信配信
 
 過労死で家族を失った遺族や支援する弁護士が、中学生や高校生らに自らの経験を伝え、働き過ぎの危険性や問題点を解説する出前授業が始まった。広告大手電通の新入社員過労自殺に象徴されるように若者の過労死は後を絶たない。遺族らは「命を犠牲にしてまで働かないで」と訴えている。

「3年生は2001年生まれだね。その頃、月150時間も残業が続き若者が過労死しました」

2月上旬、東京都新宿区の海城中学。過労死問題に取り組む山下敏雅弁護士は約30人に話し掛けた。入社したばかりの若者がその年のクリスマス前に命を絶ったケースで、生徒は息をのみ、静かに聞き入った。

「法律では1日何時間働けるか」。山下弁護士が尋ね、生徒は「8時間」と答えた。しかし、どれだけ働くと危険なのかは思い描けない。山下弁護士は「過労死ライン」という水準があり、1カ月の残業80時間が目安だと説明。平日に毎日、朝9時から夜10時すぎまで働くとこの時間に達することを伝え、「君たちの親が何時まで働いているか思い出して」と自分に引きつけて考えるよう促した。

3年男子は「父は10時すぎの帰宅が多い。疲れているようには見えないが、無理しているのかも」と不安げに話した。

国は14年、過労死等防止対策推進法を施行し、対策の一環として昨年9月から出前授業を始めた。今年3月までに87回実施し、遺族らは「『1日8時間労働』などの労働ルールを学ぼう。つらい時は医師らに相談してほしい」と伝えている。17年度は200回ほど実施する予定だ。

若者を巡る職場環境は厳しい。うつ病などの精神疾患となり、15年度に労災認定された472件のうち、20代が18%、30代が29%を占めた。人手不足で即戦力として成果を求められ、重い負担にさらされやすいことが背景にある。

電通過労自殺の遺族代理人の川人博弁護士は「厳しい労働環境で追い詰められないよう社会に出る前に働き方の原則を知り、身を守るための知識を学ぶことが必要だ」と指摘する。

「息子は責任感が強く、月の半分は深夜0時すぎまで働き、37時間連続の勤務もあった。27歳でなぜ命を奪われなければならなかったのか」

IT企業に勤めた息子を亡くした神戸市の西垣迪世さん。関西を中心に講演を続け、学生の変化を感じることがあった。

過労で死ぬと初めて知った大学生は当初、「働くのは怖い」と動揺を隠せなかった。だが就職についてじっくり考えるようになり、西垣さんに「まずは働いてみる。過酷な環境だったら教わったことを生かし自分の身を守る」と感想を寄せた。

西垣さんは「若い人に『命を犠牲にしてまで無理に働くことはない』と知ってもらえるなら、つらい経験だが多くの人に伝えたい」と話した。

この記事を書いた人