定年後の再雇用、賃金75%減は違法 高裁判決が確定

 朝日DIGITAL 2018年3月30日

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北九州市の食品会社が定年を迎える社員に、再雇用(継続雇用)の条件として賃金を25%相当に減らす提案をしたのは不法行為にあたるとして、会社に慰謝料100万円の支払いを命じた福岡高裁の判決が確定した。佐藤明裁判長は再雇用について「定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが原則」との判断を示した。

原告「会社のやりたい放題変えて」 再雇用で賃金大幅減

判決は昨年9月7日付。原告、会社双方が上告したが、最高裁が3月1日にいずれも不受理の決定をして確定した。原告代理人の安元隆治弁護士らによると、再雇用後の賃金引き下げを不法行為とした判決が確定したのは初とみられる。再雇用をめぐる企業の実務に影響

判決によると、原告は食品の加工・販売を手がける九州惣菜(そうざい)(北九州市門司区)に2015年まで40年余り正社員として勤めた。60歳の定年時は経理を担当し、月給は約33万円だった。同社は、再雇用後は時給制のパート勤務とし、月給換算で定年前の25%相当まで給与を減額する条件を示したが、原告は拒んだ。

高裁判決は、65歳までの雇用の確保を企業に義務づけた高年齢者雇用安定法の趣旨に沿えば、定年前と再雇用後の労働条件に「不合理な相違が生じることは許されない」と指摘。同社が示した再雇用の労働条件は「生活への影響が軽視できないほどで高年法の趣旨に反し、違法」と認めた。

一方で、原告と会社が再雇用の合意に至らなかったことから、定年後の従業員としての地位確認や、逸失利益の賠償請求は退けた。

一審・福岡地裁小倉支部は原告の請求をいずれも退け、原告が控訴していた。(村上英樹)

解説

高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保措置として、定年制の廃止、定年の引き上げ、定年後の再雇用のいずれかを企業に義務づけている。労働政策研究・研修機構の2013年の調査では、83%の企業が再雇用を選んでいた。従業員500人以上の大企業では9割を超える。

再雇用の労働条件は法律で定められていないため、トラブルになることがある。これまでも「容認できないような低額の給与水準や、受け入れがたい職務内容は法の趣旨に反する」として、定年前と違う仕事を示したケースを不法行為とした判決がある。

定年前と仕事が変わらないのに賃金が下がったとして、運送会社で働く運転手が、正社員と有期雇用の不合理な待遇差を禁じる労働契約法20条に反すると東京地裁に訴えた裁判は原告が勝訴。だが、二審・東京高裁判決は「再雇用で賃金が下がるのは一般的。2割前後の下げ幅は不合理とはいえない」と訴えを退けた。

運転手側が上告し、4月に最高裁で弁論が開かれる。夏前にも予想される判決で、最高裁がどんな判断を示すかも注目される。(編集委員・沢路毅彦)

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