職場のセクハラ防止条約関連記事・声明

 職場のセクハラ防止条約関連記事・声明 目次

〔1〕JIL セクハラ禁止、初の条約化採択 ILO総会、各国の対策後押し/来年に詳細持ち越し
〔2〕2018年6月8日 日経新聞_職場でのセクハラ防止条約、19年制定へ 
〔3〕20180610 朝日新聞 セクハラ国際条約制定へ 防止義務だけの日本、変わる?
〔4〕連合事務局長談話 2018年6月14日 ILO総会「仕事の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会報告の採択に関する談話
〔5〕日本労働弁護団 職場のハラスメント防止法を作ろう!集会アピール
〔6〕自由法曹団 実効性ある包括的ハラスメント禁止法の制定を求める
 
〔1〕JIL セクハラ禁止、初の条約化採択 ILO総会、各国の対策後押し/来年に詳細持ち越し[海外]
 
 国際労働機関(ILO)は年次総会最終日となる8日、セクハラや暴力など、職場での迷惑行為を禁止する初の国際条約制定を求めた委員会報告を採択した。性的被害を告発する「#MeToo」運動が広がる中、拘束力のある条約を目指す方針で一致し、各国のセクハラ対策を後押しする。
 ただ、「労働者」として保護すべき対象の範囲などについて各国で折り合いがついておらず、条約案の詳細は来年の総会での採択に持ち越された。
 関係筋によると、日本政府は条約制定にはおおむね賛成なものの、実際に批准できるよう、各国の実態に即した内容とすべきだと主張している。
 委員会報告は、通勤時や休憩中も含めた業務中に「身体的、心理的、性的、経済的に損害を与える」恐れのある行為を「絶対に許容しない」ことや、予防措置の導入を提言。求職者や被解雇者も対象にすべての労働者を保護する必要があるとしている。
 委員会のパトリー議長は「世界が注目しており、もはやこの問題を無視できない」と強調。一方で、「保護対象の定義が非常に曖昧」(英企業団体代表)と雇用者側の負担を懸念する声や、「文化の違いがあり、禁止行為を一律に決めるのは難しい」(ウガンダ政府代表)などと否定的な意見も相次いだ。
 条約が成立しても、各国が国内法との整合性などを理由に批准しないことは可能。これまで採択された189のILO条約のうち、日本が批准したのは49にとどまる。
(ジュネーブ時事)
2018年6月8日
 
〔2〕2018年6月8日 日経新聞_職場でのセクハラ防止条約、19年制定へ 
 
2018/6/8 17:51 (2018/6/8 20:46更新)
 
 【ジュネーブ=細川倫太郎】国際労働機関(ILO)は、2019年にも職場でのセクハラや暴力を防止するための条約を制定する方針を決めた。拘束力を持つ初めての国際基準になる見通し。被害者が性的暴力の被害を自ら訴える「#MeToo」(「私も」)運動が世界的に広がる中、各国のハラスメント対策を後押ししそうだ。
 ILOはスイス・ジュネーブで5月28日から始まった年次総会で、たたき台となる草案を協議してきた。最終日の8日に草案の報告書を承認し、国際基準の策定へ一歩前進した。
 条約では職場でのあらゆる暴力やセクハラを含めたハラスメントの防止を目指す。条約を補完するために、詳細内容を示した勧告も作成する。
 具体的には暴力やハラスメントを精神的、性的、経済的危害などを引き起こす許容しがたい一連の行為などと定義。被害対象者にはボランティアやインターン実習生も含んだ。加害者は雇用主や同僚だけでなく取引先や顧客も対象で、職場や通勤時間中、メールやチャットでの会話など幅広い場面で適応する。
 ILOは今後、加盟国の意見をさらに聞いて、具体的な条約と勧告の中身を詰めていく。19年の年次総会で再び討議し、条約制定を目指す。
 もっとも、今回の総会での議論は一筋縄では進まなかった。欧州連合(EU)や中国などが条約制定に賛成した一方、米国はすべての国や地域への一律適用を疑問視。「各国が使える文章にすべきだ」とし、勧告にとどめるべきだと主張した。国内でも関連法が未整備の日本は「定義が広すぎる」と態度を保留した。
 労働者の権利保護を巡っても当初、LGBT(性的少数者)も対象者に含まれていたが、同性婚を認めていない国が多いアフリカ諸国が強く反対。一時、会場から退出するなど議論は紛糾し、結論を先送りするテーマも少なくなかった。
 各国で社会規範や労働形態が異なるため、今後の議論も曲折が予想される。パワハラひとつとっても指導かハラスメントなのかは個別案件によるところが大きく、線引きは難しい。最終的にどこまで条約と勧告に明記するかに注目が集まる。
 日本では男女雇用機会均等法でセクハラの防止措置をとる義務を企業に課しているが、セクハラの定義は定まっていない。ILOが80カ国の現状を調査したところ、仕事に関する暴力やハラスメントを規制する国は60カ国で、日本は「規制がない国」に分類された。国際的にみて取り組みは後れを取っている。
 ILO総会は加盟187カ国の政府、労働者、使用者の代表が一堂に会し、労働問題について協議する。ILOのライダー事務局長は「職場からすべての暴力やハラスメントを完全になくす必要がある」と条約制定に強い意欲を示している。
 
〔3〕20180610 朝日新聞 セクハラ国際条約制定へ 防止義務だけの日本、変わる?
 
三島あずさ、山本奈朱香、村上晃一 2018年6月10日15時36分
 
■職場で受けた・見聞きしたハラスメント
 スイス・ジュネーブで8日まで開かれていた国際労働機関(ILO)総会で、セクハラなど働く場での暴力やハラスメントをなくすための条約をつくる方針が決まった。初の国際基準ができることで、日本の現状は変わるのか。専門家やセクハラ被害者らは「国内法を整備する原動力になれば」と期待する。
 8日に採択されたILOの委員会報告では、来年の総会で法的拘束力のある条約という形で国際基準の採択をめざし、働く場での暴力やハラスメントの根絶に向けた基本理念と罰則を備える、とした。
 加藤勝信厚生労働相は同日の衆院厚労委で「世界各国で効果的なハラスメント防止の取り組みが可能となるよう、引き続き議論に積極的に参加したい」と述べた。
 
 職場でのハラスメントは日本でも深刻な問題だ。
 連合(日本労働組合総連合会)が昨年、18〜69歳の仕事をもつ男女各500人に聞いた調査では、約56%の人が、職場でハラスメントを受けたり見聞きしたりしたことがあると答えた。
 最も多かったのがパワハラ(45・0%)で、セクハラ(41・4%)、女性(男性)にのみ特定の仕事を押しつけるなどのジェンダーハラスメント(25・4%)、マタハラ(21・4%)が続いた(複数回答)。ハラスメントを受けた人は、仕事や健康、日常生活に深刻な支障をきたしていることも浮き彫りになった。
 
〔4〕連合事務局長談話 2018年6月14日 ILO総会「仕事の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会報告の採択に関する談話
 
2018年6月14日
 
日本労働組合総連合会
事務局長 相原 康伸
 
1.条約採択に向けて大きな前進、国内法整備に期待
 6月8日、国際労働機関(ILO)は、スイス・ジュネーヴで開かれていた第107回総会において、条約と勧告による補完を内容とする「仕事の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会の報告を採択した。#MeToo運動が日本にも広がりを見せ、世界共通の課題としてハラスメントの根絶が求められる中、今回の委員会報告採択は、来年のILO総会における条約採択に向けた大きな前進として評価するとともに、日本国内の法整備がめざす方向性として期待できる。
 
2.ハラスメントと労働者の定義、禁止規定などが盛り込まれる
 委員会では、2016年に実施されたILO調査や専門家会議報告、2017年の加盟国政労使の意見聴取などにもとづき策定された結論案をたたき台に、議論が行われた。採択された報告は、「文書の形式」を条約と勧告による補完とした上で、「暴力とハラスメント」を身体的、精神的、性的または経済的危害を引き起こす許容しがたい行為などと定義し、対象となる「労働者」に契約上の地位にかかわらず働く人々も含め、「加害者および被害者」には取引先や顧客などの第三者が盛り込まれた。また、加盟国は仕事の世界における暴力とハラスメントを禁止するための国内法令を採択するべきとしている。
 
3.包括的な内容を評価しつつ、LGBT等のリスト削除は遺憾
 連合を含めた労働側は、必要な内容が適切に盛り込まれた結論案を支持しつつも、より多くの政府の支持が得られるように柔軟性を持った対応で議論に臨んだ。その結果、ハラスメントや労働者の定義について、包括的な内容が確認されたことは評価する。また、ハラスメント禁止規定が盛り込まれたことは日本の国内法整備の前進につながるものとして期待したい。一方で、「条約の内容」から、LGBTを含めハラスメントの影響を受けやすいグループのリストが削除されたことは極めて遺憾である。
 
4.あらゆるハラスメントの根絶をめざして、条約採択と国内法整備を
 今後、ILOは、加盟国政労使の意見聴取を経て、その結果にもとづき修正された草案を来年のILO総会で議論し、3分の2の賛成で条約採択となる。連合は、引き続き国際労働組合総連合(ITUC)とともに「STOP!仕事におけるジェンダーに基づいた暴力」キャンペーンを展開し、ILO条約採択と批准に向けた国内法整備を求めていくとともに、あらゆるハラスメントの根絶に向けた取り組みを強化していく。
以上
 
〔5〕日本労働弁護団 職場のハラスメント防止法を作ろう!集会アピール
2018/11/24
 
職場のハラスメント防止法を作ろう!集会アピール
 職場のハラスメント(職場のいじめ・嫌がらせ)は、深刻な社会問題である。本日の集会でも、各当事者や団体の報告から、パワハラ、セクハラ、サービス業における顧客からのカスタマーハラスメントなど、職場におけるハラスメントの凄惨な実態が明らかとなった。
 現在、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会では、職場のパワーハラスメント対策等についての議論が行われており、本年11月19日の審議会において、事務局案として、「女性の活躍の推進及びパワーハラスメント防止対策等の在り方について(取りまとめに向けた方向性)」が提示された。
この中で、事業主に対して職場のパワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付けるとの方向性が示されたことは、一歩前進である。しかし、カスタマーハラスメント等の第三者からのハラスメントは除外され、セクハラに関する行為禁止規定の創設についても消極的な方向性にとどまるなど、その内容は全く不十分である。
 本来、「職場のハラスメント」とは、セクハラ、マタハラ、パワハラといったカテゴリーに明確に分類しうるものではなく、例えばLGBTを理由とするハラスメントや顧客等の第三者からのハラスメントなど、多様な事案を含むものであり、それら全体を防止し、規制することが必要である。また、職場のハラスメントが許されない行為であることを社会的に明確に周知し、労働者が職場のハラスメントを受けることなく就業することが権利であることを明らかにするためには、独立の「職場のハラスメント防止法」の立法が必要である。その中には、雇用、就業形態に関係なく職場で働くすべての労働者が保護対象とした上で、事業主の措置義務規定に加え、事業主、上司、同僚はもちろん、取引先、顧客、患者などの第三者も対象としたハラスメント行為禁止規定、ハラスメントのない環境で働く労働者の権利を確認する規定を設けるべきである。
 来年のILO総会では、極めて広範なハラスメントを対象とした「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する基準が「勧告に補完される条約」として採択される予定である。世界的にも仕事の世界における暴力とハラスメント禁止が大きな流れになりつつある今こそ、日本においても職場のハラスメントに対する規制立法に真摯に取り組むべきである。
 私たちは、職場におけるあらゆるハラスメントの根絶に取り組むことを宣言するとともに、職場のハラスメント防止法の早期立法を強く求める。
 
2018年11月22日 集会参加者一同
 
〔6〕自由法曹団 実効性ある包括的ハラスメント禁止法の制定を求める
 
声明
実効性ある包括的ハラスメント禁止法の制定を求める
 
 1 事業者にハラスメント防止措置義務を定めた「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(いわゆる女性の活躍推進法の改正案、以下「内閣提出法案」)の審議が昨日衆議院厚生労働委員会で始まった。初日から参考人質疑を開始し、本日も終日審議するという異例の速さで審議が進められようとしている。
 2 この参考人質疑の中でも、内閣提出法案にはハラスメント禁止規定がないため行政が違法行為の認定をできない、ハラスメント行為者に対して勧告ができない、措置義務違反を指摘する労働局側の人員が不足している、セクハラは2006年から措置義務の定めがありながら減少していないなど、ハラスメントの予防について実効性がないとの指摘があった。また、女性のセクハラ被害の実態は深刻であり、労働者だけでなく就職活動を行う学生(就活生)や業務委託従事者が被害を受ける場合、職場だけでなく営業先、顧客などから被害を受ける場合等、多岐にわたっていることや、強制性交に至る深刻なもの、報復を恐れて誰にも相談できないケースなど様々な実態も紹介された。
 3 参考人の中には、セクハラを含めハラスメントを禁止すべきか今後中長期的に検討すべきであるという意見もあったが、昨年の労働政策審議会の議論でも、ハラスメントは人格権の深刻な侵害、すなわち人権侵害であることを前提に議論していた。また、ハラスメント相談は労働局の受ける相談で最も件数が多くなっており、もはや放置できない人権侵害であることは明白で、中長期の検討に委ねることなど許されない。ハラスメントという現に発生している人権侵害を直ちに禁止し、その実効性ある救済を図る必要があることは明白である。
 4 ハラスメント行為により、労働者が出社できなくなったり、うつ病に罹患したりして職業生活から遠ざかる例、ひいては自死に至る例もあるのであるから、立法府が実効性のない措置義務を事業者に課すにとどまるなら、立法不作為の責任も問われることとなろう。
 5 自由法曹団は、ハラスメントや差別のない人間性豊かな職業生活を送る権利は、憲法13条に保障された幸福追求権の一内容であることに鑑み、セクハラを含むハラスメントを防止し人権救済を図る必要から、内閣提出法案に対し、?ハラスメント定義部分につき、「労働者」に就活生、業務委託従事者、「職場」に営業先、顧客などを含む規定に修正すること、?何人もハラスメントを行ってはならないという包括的禁止規定を法案に盛り込むこと、?ハラスメント行為が民事罰の対象となることを明記すること、?調停においては、調停案を受諾しない場合にはハラスメント認定をした上であっせん案を公表できる制度を加えること、?セクハラの定義については、人事院規則の内容を定義として採用して、何人にも禁止し、セクハラ行為が民事罰の対象となるとの定めを加えること、との修正を行うよう求める。
 
6 本年6月のILO総会で採択予定のハラスメント禁止条約は、包括的なハラスメント禁止条約であり、内閣提出法案のような実効性もなくハラスメントを包括的に禁止していない法律案は、ILOハラスメント禁止条約案とあまりにもかけ離れている。
  よって、自由法曹団は、内閣提出法案について、実質的にILOハラスメント禁止条約案の水準に達するように、ハラスメントを包括的に禁止する実効性のある「ハラスメント禁止法」に修正することを要求するものである。
 
2019年4月17日
                  自由法曹団 団長 船尾 徹
 

 

この記事を書いた人