(試訳)仕事の未来のためのILO100周年宣言、2019

仕事の未来のためのILO100周年宣言、2019

〔解説〕 2019年6月、ILO第108次総会は、「仕事の未来のためのILO100周年宣言、2019年(ILO Centenary Declaration for the Future of Work, 2019)」を採択しました。関連した論文原稿を作成する準備として、日本語訳を探していましたが、ILO日本事務所やJILのHPなどで見つけることができませんでした。公式の訳または仮訳を待つことができませんので、拙い英語力ですが、宣言文を試訳してみました。日本で、労働者の権利をめぐる議論にとって基礎になる文書だと思います。
 他方、宣言が生まれる過程についても調べています。安全で健康的な労働条件の保障が、今回の宣言では、基本原則から外されたことなどの指摘を見つけましたが、その理由は分かりません。ハラスメント条約採択の関係や、今年、詳しい報告書が出されたことなどから、基本原則に含まれなかった理由は何か、いまところ納得できていません。
 なお、十分に意味がとれない箇所や適当な日本語訳が見つからない語句もあります。もし、誤訳などについて、ご指摘、ご教示をいただければ幸いです。試訳の対象となる原文(英文)は、下記のurlから入手しました(https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—ed_norm/—relconf/documents/meetingdocument/wcms_711674.pdf)。
         (2019年07月14日22時 文責・試訳 脇田滋)


【試訳】(Ver.001_20190714)

 仕事の未来のためのILO100周年宣言、2019
 ILO100周年を迎えてジュネーブで開かれた第108次ILO総会は、過去100年の経験から、継続的かつ協調ある労使政の活動が社会正義、民主主義並びに普遍的かつ永続的平和促進に必須であるという確信が得られたことを考慮し、
 そのような活動が、より人間的な労働条件をもたらした経済的社会的進歩を歴史的に促進させたと認め、
 合わせて、世界の多くの部分において、持続する貧困、不平等、不正義、紛争、災難その他の人道主義的な危険が、そのような促進を威嚇し、すべの人々に対する繁栄の共有と人間らしい労働(decent work)を威嚇していると考え、
 ILO憲章と1944年フィラデルフィア宣言で定められた目標、目的、原則と任務を想起して再確認し、
 職場における基本原則と権利に対する宣言(1998年)および公正なグローバル化のための社会正義に対する宣言(2008年)の重要性を強調し、
 100年前にILOを誕生させた社会正義の責務(imperative)と、ILOを活性化させILO設立のビジョンを実現し仕事の未来を形作るのは全世界の労使政にかかっているという確信によって動かされ、
 社会的対話が、全社会を結集することに寄与し、機能的で生産的な経済をに極めて重要であることを認識し、
 また、雇用創出および技術革新と人間らしい雇用(decent work)の促進者として持続可能な企業の役割が重要であることを認識し、
 労働は商品でないことを再確認し、
 暴力とハラスメントがない仕事の世界を作るために全力を傾け、
 特に、私たちが望む仕事の未来を形作るのに、また、仕事の世界の課題に対処するのに多国間主義(multilateralism)の促進が重要であることも強調し、
 ILOのすべての関係者に、1919年と1944年に合意した社会的正義と普遍的かつ永続的な平和を達成するための揺るぎない献身を再確認し、その努力を再活性化することを呼びかけ、そして
 すべての地域の公正な代表性を確保し、加盟国間の平等原則を確立することによって、ILOのガバナンスを民主化することを強く望み、
 本日2019年6月20日、仕事の未来のためのILO100周年宣言文を採択する。

総会は次の通り宣言する。

 A. ILOは、技術革新、人口動態の変化、環境と気候変動、そしてグローバリゼーションがもたらす仕事の世界における変革的変化の時代に、また、仕事の性質と未来および、そこにいる人々の立場と尊厳に大きな影響を与える持続的不平等の時代に百周年を迎えた。
 B. すべての人に完全かつ生産的で自由に選択された雇用と、人間らしい労働(decent work)がある、公正かつ包容的で確実な仕事の未来を作るために、機会をとらえて迅速に行動し、挑戦することを表明しなければならない。
 C.そのような仕事の未来は、貧困を終わらせ、誰をも置き去りにしない持続可能な開発の基礎である。
 D. ILOは、労働者の権利と、すべての人々の必要、願望、権利を、経済、社会、環境政策の中心に置く仕事の未来への人間中心アプローチをさらに発展させることにより、社会正義に対する憲章上の負託を不断に果たし、次の世紀へと前進しなければならない。
 E. 過去100年を超えて全世界に加盟国を広めたILOの成長は、社会正義が世界のすべての地域で達成される可能性があることを意味し、また、この努力に向けたILO構成員の完全な寄与が、完全、平等、民主的な参加と、三者構成ガバナンスへの平等かつ民主的参加によってのみ保障され得ることを意味している。
 総会は次の通り宣言する。
 A. ILOは、憲章上の負託を果たすには、仕事の世界における重大な変革を考慮に入れて、そして、仕事の未来への人間中心のアプローチをさらに発展させ、次のことに努力を向けなければならない。
 (i)経済的、社会的および環境的側面において持続可能な開発に貢献する仕事の未来への正しい移行を確実にすること、
 (ii)社会的対話を通すこと含めて、尊厳、自己実現およびすべての人への利益の公正な分配を確保する人間らしい労働(decent work)と持続可能な発展を達成するために技術進歩および生産性成長の最大潜在力を活かすこと(hareness)
 (iii) 以下のことをするために、政府と社会的当事者の共同責任として、全労働生活を通して、すべての労働者が技術、力量、資格の習得を促進すること
   – 現在の技術と予想される技術の格差に対処すること
   – 仕事の進化を考慮しながら、教育訓練システムが労働市場の需要に対応できるようにすることに特に注意を払うこと。また
   – 人間らしい労働(decent work)の機会を利用できる労働者の力量を高めること
 (iv)すべての人に、完全かつ生産的で自由に選択された雇用と人間らしい労働(decent work)の機会を生み出す目的で、特に、青年が仕事の世界に効果的に統合されることに焦点を合わせて、教育と訓練から仕事への移行を促進する目的で、効果的な政策を開発すること。
 (v)高齢労働者が、その退職まで高い質の生産的かつ健康的条件で働き、活動的な高齢化を可能にする機会を最適化して、その選択肢を拡大する措置を支援すること。
 (vi)結社の自由および団体交渉の権利を授権的権利(enabling right)として実効あるものと認識することに焦点を当て、包括的かつ持続可能な成長を達成するための主要素として労働者の権利を助長すること。
 (vii)進行を定期的に評価して、次のような変革的アジェンダを通じて職場における性平等を達成すること
  -男女に対する平等な機会と平等な参加、平等な待遇、同一労働に対する同一賃金を保障する
  家族責任のより均衡のとれた分かち合いを可能にする
  労働者と使用者が、それぞれのニーズと利益を考慮して、労働時間を含めた解決策について合意することで、ワークライフバランスを改善する余地を提供する。 そして
  -ケア経済(care economy)に対する投資を促進する。
 (viii)仕事の世界において、障害を持つ人々をはじめ脆弱状態(vulnerable situations)にある人々にも平等な機会と待遇を保障する。
 (ix) 人間らしい労働、生産的雇用およびすべての人々の生活水準の向上を生み出すために、起業家精神および持続可能な企業、特に中小企業ならびに協同組合および社会的連帯経済のための可能な環境を促進することによって、経済成長および雇用創出の主な源として民間部門の役割を支援する。
 (x)重要な雇用主であり、質の高い公共サービス提供者としての公共部門の役割を支援する。
 (xi) 労働行政および労働監督を強化する。
 (xii)国内および世界的サプライチェーンを含む、多様な形態の作業方式、生産、企業モデルが、社会経済進歩のための機会を活用して(leverage)良質の雇用を提供し、完全で生産的であり自由に選択された雇用に導く(conductive)ことを保障する。
 (xiii)強制労働および児童労働を根絶し、すべての人のための人間らしい労働(decent work)を推進し、国際的な統合の高い分野または分野を含む、国境を越えた協力を促進する。
 (xiv)農村部に十分な注意を払いながら、非公式経済から公式経済への移行を促進する。
 (xv)適切かつ持続可能で、仕事の世界の発展に適応した社会保護システムを開発し強化する。
 (xvi)構成員のニーズに応えて、国際的労働力移動に関する作業を深め、拡大し、労働力移動における人間らしい労働(decent work)において指導的役割を果たす。
 (xvii)以下の認識に沿って、政策の一貫性を強化する目的で多国間システム内における関与と協力を強化する。
   – 人間らしい労働(decent work)は持続可能な開発の鍵であり、所得不平等に取り組み、貧困を終わらせ、紛争、災害、その他人道的緊急事態に陥っている地域に特に注意を払う。そして
   – 世界化の状況において、ある国で人道的労働条件を採用できないことが、かつてなく他のすべての国々において進歩を妨げる障害物になっている。
 B. 団体交渉や三者間協力を含む社会的対話は、ILOの全活動の根本的基盤を提供し、加盟国における政策と意思決定の成功に寄与する。
 C. 労働組合の役割を損なわない方式での効果的職場協力は、団体交渉とその成果を尊重し安全で生産的な職場を保障するのに役立つ手段である。
 D.安全で健康的な労働条件は人間らしい(decent work)の基本である。
 総会は、すべての加盟国に、各国の事情を考慮し三者間および社会的対話に基づいて、またILOの支援を受けて、以下のことによって、仕事の未来への人間中心アプローチをさらに発展させることを要請する:
 A. 仕事の世界の変化という機会を享受できるように、次のことを通じて、すべての人々の力量を強化する。
 (i)機会と処遇における両性平等の効果的実現。
 (ii)全員にとって効果的な生涯学習と良質の教育。
 (iii)包括的かつ持続可能な社会的保護への普遍的アクセス。 そして
 (iv)職業生活を通じて直面する変化を通じて人々を支援するための効果的な方策。
 B. 非公式〔労働〕の広がりと、公式化への移行を達成する効果的活動を保障する必要を認識する一方、すべての労働者を適切に保護するために〔公的〕労働機関を強化し、そして労働者に〔雇用〕安定性と法的保護を提供する手段としての雇用関係の継続的関連性(relevance)を再確認すること。すべての労働者は、人間らしい労働アジェンダに適合する保護を享受しなければならない。
 (i)労働者の基本的諸権利を尊重する。
 (ii)法定または交渉による適切な最低賃金
 (iii)労働時間の上限、そして
 (iv)職場における産業安全
 C. 持続的、包括的かつ持続可能な経済成長、完全で生産的な雇用およびすべての人に対する人間らしい労働(decent work)を促進すること。
 (i)このような目標を中心目標とするマクロ経済政策
   (ii)良質の雇用を促進して、生産性を強化する貿易、産業及び部門別政策
 (iii)仕事の世界における変革的変化の推進者となるインフラと戦略的部門に対する投資
 (iv)持続可能かつ包括的な経済成長、持続可能な企業の創出と発展、非公式から正式な経済への移行を促進し、本宣言の目的に沿ったビジネス(business)慣行の整合性(alignment)を促進する政策およびインセンティブ、そして
 (v)適切なプライバシーと個人情報保護を確保し、プラットフォーム労働を含む労働のデジタル変換に関連する仕事の世界における挑戦と機会に対応するための政策と手段。
 総会は次の通り宣言する。
 A. 国際労働基準の設定、促進、批准および監督は、ILOにとって根本的に重要である。このためにILOは、国際労働基準を明瞭かつ強固で最新のものにし、透明性をさらに高める必要がある。国際労働基準はまた、仕事の世界の変化するパターンに対応して労働者を保護し、持続可能な企業のニーズを考慮に入れ、権威ある効果的監督の対象となる必要がある。ILOは、加盟国が基準を批准し、効果的に適用することを支援する。
 B.すべての加盟国は、ILO基本条約の批准および実施に向けて取り組み、雇用主および労働者団体と協議しながら、他のILO基準の批准について定期的に検討するべきである。
 C. ILOは、以下の目的で(政労使)三者構成員の力量を強化する義務がある。
 (i)強力で代表性のある社会的パートナー組織の発展を奨励し、
 (ii)国境内および国境を越えて、労働市場制度、プログラムおよび政策を含めて、すべての関連プロセスに介入し、 そして
 (iii)そのような代表性と対話が社会の全体的結束に寄与し、公益の問題であり、十分に機能する生産的な経済にとって極めて重要であると確信し、強力で影響力のある包括的な社会対話メカニズムを通して、職場における、必要に応じてあらゆるレベルにおける、すべての基本原則および権利に取り組む。
 D. ILOが加盟国および社会的パートナーに、特に開発協力を通じて提供するサービスは、その使命と一致し、拡大した南南および三角協力によることを含め、その多様な状況、ニーズ、優先順位および開発レベルを十分に理解し、また、注意を払うことを基礎としなければならない。
 E. ILOは、根拠に基づく政策助言の質をさらに強化するために、最高レベルの統計、研究および知識管理の力量と専門知識を維持しなければならない。
 F. その憲章上の義務に基づき、ILOは、他の組織との協力を強化し、制度的整備arrangementsを発展させて、社会、貿易、金融、経済および環境政策間の強くて複雑かつ決定的な相互関連を認識し、仕事の未来への人間中心のアプローチを追求することによって政策の一貫性を推進するために重要な役割を果たす必要がある

 2019年仕事の未来のためのILO100周年宣言決議
 2019年の第108回セッションで会合した国際労働機関総会は、
 仕事の未来のためのILO創立100周年宣言を採択し、理事会が、ILO創業100周年宣言の実施のフォローアップと定期的な見直しを確実にすることを要請する。そして、
 1.ILOの仕事における基本原則と権利の枠組みに、安全で健康的な労働条件を含めるための提案をできるだけ早く検討するよう理事会に要請する
 2. (総会は)理事会が、事務総長に宣言を適切に考慮して、2020年から21年にかけての内容と構造において、(宣言の)優先順位を反映させること、また、将来の計画と予算の提案のために、適切なリソースをこれらに割り当てて、理事会が検討できるように要請することを勧告する。
 3. ILO理事会の機能と構成を明確に民主化するために、できる限り早い時期に、1986年のILO憲章改正文書の批准プロセスの完了を要求する。 そして
 4.理事会に対し、多国間システム内での一貫性の向上を目的とした提案を理事会に提出するよう事務総長に要請するよう勧告する。

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