医療機関の「お産休止」に潜む過酷な産科医の労働実態
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深澤友紀2019.8.25 08:00AERA#病院
出産は24時間365日いつあるかわからない。経過は順調でも急変することがあり、産婦人科医たちはいつも気が張り詰めている(撮影/横関一浩)
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減少する出生数と分娩施設(AERA 2019年8月26日号より)
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産婦人科医の男女分布(AERA 2019年8月26日号より)
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お産を休止する医療機関が後を絶たない。背景にはあるのは、産科医の無理な働き方だ。産科医療体制が岐路に立たされている。
【図表で見る】15年間の出生数と分娩施設の減少
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1033。この15年間で赤ちゃんが産めなくなった病院、診療所の数だ。2017年現在、全国でお産ができる医療機関は2273。15年でおよそ3分の2になった。
産科医療が「崩壊の危機」とまで言われた2000年代と比べて減少のペースは緩やかだが、現在もお産を休止する医療機関は後を絶たない。報道されたものだけでも、今年に入って西吾妻福祉病院(群馬県長野原町)、大津市民病院(滋賀県)、さぬき市民病院(香川県)、奈良県西和医療センター(同県三郷町)が分娩を休止。主な理由は産科医の不足だ。地方だけの話ではない。都内でも、世田谷区の至誠会第二病院が「診療体制の都合」を理由に、4月から産科診療を休止している。
今年7月、分娩休止を検討する兵庫医科大学ささやま医療センター(兵庫県丹波篠山市)は、継続を求める市と話し合いを持った。同センターの産婦人科は医師2人体制。朝日新聞によると、医師は現状を市にこう説明した。
「リスクのない分娩はなく、いつ呼ばれるかとずっと緊張が続き、『今日はオフだから家族で過ごそう』というのも無理な状況」
そこには、たとえ休日であっても心身が休まらない状況がある。
産科はまちづくりの重要なインフラだ。安心して産むことができる施設が地域からなくなれば、子育て世代の流出や少子化がますます進む懸念がある。だが、現在のように産科医に無理な働き方を強いる現状をいつまでも維持していくことはできない。
日本の周産期死亡率は各国と比べて極めて低く、妊娠すれば元気な赤ちゃんが生まれるのが当たり前だと思っている人は少なくない。だが、経過に異常のない妊娠でも急変のリスクがあり、産婦人科医の当直や緊急呼び出しは多い。日本産婦人科医会が毎年実施している「産婦人科勤務医の待遇改善と女性医師の就労環境に関するアンケート調査報告」(18年12月)によると、1カ月間の平均当直(宿直・日直)回数は、内科や外科は3回、小児科は4回に対し、産婦人科は5.6回と、他診療科に比べ、突出して多い。
今年7月に厚生労働省労働基準局長が出した通達「医師、看護師等の宿日直許可基準について」の中で、宿直は「特殊な措置を必要としない軽度や短時間業務に限り、十分な睡眠がとり得るもの」とされているが、このアンケート調査結果によると、当直中の産婦人科医の合計睡眠時間は4.9時間。お産は昼夜問わずあり、夜間や休日は、平日日中と比べて医療スタッフの数も限られるため、当直する産婦人科医の負担は大きい。当直翌日も夕方や夜まで勤務という病院が6割以上ある。
当直医を置かずに自宅待機をする「宅直」も4割の病院で行われていて、月に平均12.1回の宅直があり、5.4回出勤している。当直医とは別に、緊急時に備えて自宅待機する「セカンドコール」も7割近い病院で実施されている。ドラマにもなった漫画『コウノドリ』では、主人公の産婦人科医がライブでピアノ演奏中に病院から呼び出し電話が鳴り、ステージから消えてしまう場面が何度も描かれているが、現実の世界でも、勤務時間外の呼び出しに備える産婦人科医は少なくない。
日本産婦人科医会常務理事で、日本医科大学多摩永山病院院長の中井章人医師の試算によると、「宿直は週1回、日直は月1回を限度とする」という厚労省の通知を満たすためには、当直1人体制の場合は最低8人、2人体制の場合は最低16人の医師が必要だという。だが、同会の施設情報(18年)によると、常勤医師が1人の病院は59(7.8%)、2人の病院は83(10.9%)で、2割近くが常勤の産婦人科医1〜2人だ。中井医師は言う。
「試算した必要医師数は、有給休暇の取得や、妊娠や育児による当直勤務緩和も想定していないので、実際にはもっと多くの医師が必要です。少人数では分娩施設を維持することは難しい」
医師の働き方改革に詳しい国際医療福祉大学医学部の和田耕治教授(公衆衛生学)はこう話す。
「少子化で出産数が減る中で産科の収益が減少することが見込まれている。地域のお産を守るという意志を持って分娩に対応する医療機関や医師に対して、さらに経済的なインセンティブをつけていかなければ、産科医療体制は守ることができない」
ただ、民間病院と比較して公的な病院では、産科だけに特別の配慮や追加の手当支給といった例外的な扱いができにくい点もあるという。
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2019年8月26日号より抜粋