厚労省、医師の残業「月155時間」まで容認…労基法違反前提で医療制度を設計 (9/25)

厚労省、医師の残業「月155時間」まで容認…労基法違反前提で医療制度を設計
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biz-journal 2019.09.25 文=編集部

【この記事のキーワード】医師, 長時間労働, 働き方改革

「gettyimages」より

 今年4月1日に施行された改正労働基準法で、時間外労働の上限時間が「月45時間・年360時間」に規定された。特別な事情がある場合も「年720時間」「休日労働を含め複数月平均80時間以内・単月100時間未満」が上限に設定された。
ところが、適用猶予・除外とされた業務もある。そのひとつが医師で、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は、地域医療維持の観点から地域医療確保暫定特例水準を設けて、時間外労働時間の上限を「年1860時間」とした。月平均155時間である。過労死ラインは「時間外労働時間が健康障害の発症前1カ月間におおむね100時間」「発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、おおむね月80時間超」と設定されているが、これをはるかに超えている。
さらに検討会は「医療の公共性・不確実性を考慮し、 医療現場が萎縮し必要な医療提供体制が確保できなくなることのないような規制とする必要がある」と「医療安全の観点からも、医師が健康状態を維持できることは重要」という2つの課題の両立を提言した。
勤務医の団体である全国医師連盟が6月9日に都内で開いたシンポジウムで、連盟代表理事の中島恒夫氏は、こう持論を述べた。
「2つの両立は無理である。医師が不足しているのだから。本来、検討会がすべきだったことは“労基法違反を前提とした病院経営はあってはならない”と厚労省に言わせることである。医師の過重労働を防ぐためには、医師を増やすこと、主治医制からチーム制への移行、都市部では急性期病院の集約、夜勤医師の集約、単なるベッド数削減でなく地域の実情に合った医療提供体制に改めることが重要である」
医師の働き方改革では、医師の就労観が変化していることにも目を向けなければならない。登壇した淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)産婦人科副医長の柴田綾子氏は、実態を打ち明けた。
「30代以下の医師たちは、身を粉にして、自分を犠牲にして働いて医療を支えることがカッコイイとは微塵も思っていない。男性医師も家庭を大切にする考え方に変わってきていることを理解してほしい」
かつては聖職と呼ばれ、自己犠牲のもとに医療提供体制を支えてきた医師も、労働基準法が適用される労働者である。ワークライフバランスの重視は必然の流れだ。
「職員第一主義」の病院

 こうした難局にあって、医療提供体制の確保と医師の健康維持を両立させている例もある。
仙台厚生病院(仙台市)は、入院治療能力を評価する指標である平均在院日数が今年4月に8.5日を記録した。厚生労働省がこの6月4日に発表した一般病床の平均在院日数の全国平均は16.4日(今年2月時点)。同院の実績は際立っている。

 しかも同院の管理職と臨床研修医を除く医師66人の残業時間は、1人平均で月8.06時間にすぎなかった。処遇もきわめて手厚い。管理職以外の医師には1回の宿直につき5万円の手当に加えて、急患対応などに時給が加算され、1回の当直に約10万円が支給されている。月2回の宿直で約20万円になる。さらに医師には自己研鑽手当として、月40時間分の金額が支給されている。4年目の後期研修医の年収は約1500万円にも達するという。
同院の最大の特徴は「選択と集中」「連携と分担」である。「患者数が多く、心筋梗塞や吐血など開業医では手に負えない疾患も少なくない」(同院臨床検査センター長・遠藤希之氏)という理由から、循環器、消化器、呼吸器の3領域に医師と医療資源を集中させた。そのうえで、3領域以外の診療科は他の病院や約1400人の登録医との間で、連携と分担を図っている。
この体制が医師や他の職種の労働時間に余裕を生んだのだが、体制だけの問題ではない。同シンポジウムで遠藤氏は、同院が掲げる「職員第一主義」を紹介した。
「医師や看護師を心身ともに健康な状態で治療に従事させるという職員第一主義は、究極の患者第一主義である。中途入職した内科医が時間外労働で診療を行って収入を上げようとしていたとき、その内科医に向かって、当院の目黒泰一郎理事長は『時間外まで診療を行って収入を上げることは断じて評価しない!』と一喝していた。時間外で診療をやれば稼げるが、診療にかかわる看護師や臨床検査技師、放射線技師などは疲れてしまう。そんな無理をしてまで稼ぐ必要はないというのが当院の考え方である」
問われる病院経営者の方針

 同院のように取り組めるかどうかは、ひとえに病院経営者(医療法人理事長)の方針次第である。一般論として、法人理事長が絶対的な権限をもつ病院組織の力関係のなかで、勤務医による改革はさほど期待できない。過酷な就労環境を強いられている病院勤務医は、どう対処すればよいのか。中島氏は「労働環境のよい病院に転職することもひとつの自己防衛策である」と述べ、転職時の留意事項として以下を挙げた。
(1)急かす転職斡旋業者は断る
(2)契約する前に病院をお忍びで見学して雰囲気を確認する
(3)契約書に署名する前に36協定、就業規則、退職規程を確認する
(4)当直が「宿直」か「夜勤」かを確認する(宿日直手当は夜勤手当より少ない)
(5)オンコールは業務命令か否かを確認する
(6)所属診療科の人員は余裕をもった交替制を可能にする8人以上かを確認する
長年にわたって自己犠牲をいとわずに医療を支えてきた文化に由来するのか、労働基準法令の遵守に対する医師の認識はかなり低い。労働政策研究・研修機構によると、3割が遵守されなくてもやむを得ないと考えていて、その割合は男性・高齢・長時間労働者ほど高い。
もっとも、この傾向は一般の会社員も同様ではないのか。自己防衛策として労働関連法令の知識は、いまや必須要件である。
(文=編集部)

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