「UberEats労働問題」で考えるギグ・ワークのこれからと「パッションエコノミー」 (1/12)

「UberEats労働問題」で考えるギグ・ワークのこれからと「パッションエコノミー」
https://thebridge.jp/2020/01/ubereats-worker-platform-problem-japan
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Image Credit: UberEats

まだ記憶に新しいかと思いますが、11月20日にUberEatsは日本法人設立に合わせて、同プラットフォームのプロバイダーとして活動する配達員の報酬カットを公表しました。本稿では2020年代にも拡大するであろう、個人の働き方、ギグワークの問題点について少し考察してみたいと思います。

何が発生したのか:配達員の収入は、配送距離などに応じた基本報酬に加え、配達回数などに応じたボーナス分で構成されています。今回カットされたのは主に基本報酬の方です。

具体的には、配達員が店で商品を受け取った際の「受け取り料金」が300円から265円に。注文者に商品を渡す「受け渡し料金」が170円から125円。店から配達先までの距離に応じた「距離報酬」が150円から60円(1キロあたり)に引き下げられました。

同時に、UberEatsが徴収するサービス手数料が35%から10%に減少し、件数をこなすほどに一定のペースで受け取れる「インセンティブ報酬」が増加するとのプラスの変更がなされたため、UberEats側は「改定が配達員の収入に影響を与えることは想定していない」と主張しています。

これに対し12月5日、UberEatsの配達員により結成された「ウーバー・イーツ・ユニオン」は抗議の一環として記者会見を開き、上述の改定の撤回及びUberEats側に、同ユニオンと団体交渉を応じることを求めました。

同ユニオンは、上述の低い報酬・運営の透明性の欠如に関する批判以外にも、配達員が業務内の事故により怪我・病気を患った際の労災保険や医療費の保証、休業を余儀なくされた場合の補償などを要求しています。

これに対し、UberEats日本法人は一貫して「配達員は労働者ではなく個人事業主であるため、団体交渉に応じる法的義務はない」と公表して対応を拒否しています。ちなみにUberEatsは2019年10月1日、ドライバーの業務中の傷害に対する補償制度を開始していることから、委託業務に関連する一定のサポートはしているようです。

Image Credit : ウーバー・イーツ・ユニオン

何が問題なのか:UberEats配達員は「労働者」か「個人事業主」か
さて、以上のニュースを踏まえると「なぜ配達員は個人事業主であるにも関わらず、”ウーバー・イーツ・ユニオン”という労働組合を結成し、雇用者としての保険・補償を求め、団体交渉を申し込んでいるのだろうか?」といった疑問が湧いてきます。

UberEatsの配達員は「誰でもできる(市場における希少性が極めて低い)仕事」です。誰でもできる仕事は、すなわち誰でも参入可能で、コモディティ化しやすいという特徴があります。市場原理として、価値(対価)が低下するという危険に晒されることになります。

そこでこういった危険を回避するため、専門性がそこまで高くない人々は、一般的には賃金・労働環境に関し雇用者への交渉余地のある従業員として働き、労働組合に加入することで、法的な面を含めて自身の生活の安全を守るわけです。

さて、以上を踏まえると、UberEatsの配達員は明らかに非熟練型のサービス業なので、個人事業主としてではなく、きちんと労働者として扱われるべきではないか、と考えることもできます。

実際に労働者という概念は、ある業務が実質的に労働者性を持つか否かによって決まるため、仮に配達員が法的に労働者認定されるのであれば、UberEatsは対応を講じる必要が生じます。

ですが、この判断が非常に難しいのです。Ubereatsの配達員が労働基準法における労働者に適応されるかは、依頼主との間にどれだけ使用従属関係があるか、どれだけ自律性の高い働き方をしているかという一定の基準に従って定められます。

しかしその法的根拠が、別の法律である労組法との間で微妙に異なっていたり、労働者性と呼ばれる判断基準(※参考)が複雑・曖昧であるため、明確に労働者か個人事業主かを判断することが困難だとされているのです。

※本件に関する専門家による参考解説記事(Yahoo! ニュース)

よって現在では、過去数年の同様の労働問題においては、一概に労働者の定義を定め適応するのではなく、個別事例ごとの判断が最も合理的だという見方がなされていると言います。

したがって、今後のUberEatsとユニオンの動向や交渉(場合によっては訴訟)の結果が待たれます。法的見解により配達員が労働者認定をされるのか、または新しい枠組みが制定されるのかといった決定は、同社の事業が拡大した数年後の未来に、確実に待ち受けています。

Image Credit : ウーバー・イーツ・ユニオン

Uberの苦境と、UberEatsの今後
海外の判例に目を向けることも大切です。実は上述の問題・争議は既に5年以上前から世界中で起こっている現象で、何も真新しいことではありません。Uber社が米証券当局に提出した上場申請書類の中では、サービスを担う運転手の一部から雇用関係の認定や、損害賠償を求める訴訟を数多く起こされているという事実もあります。

これはUberEatsではなくUberの話ですが、例えば英国の雇用審判所はある訴訟の中で、Uberのドライバーは自営業者ではなく労働者であると認定しています。また、仏最高裁も料理配達サービスの運転手はウーバーと「従属関係にある」と雇用関係を示唆する判断を示しています。

ですが、このような訴訟にUberが屈してしまうと、これまで無視してきた規制遵守のコスト・ドライバーへ支払う報酬額が増加し、事業モデルそのものが成り立たなくなる危険性があります。このような問題の影響もあり、現在のUberの株価は2019年の春に公開して以来、下降傾向です。

さて、話を少し広げ過ぎてしまいましたが、今回のUberの報酬カットと、それに付随するユニオンの問題提起は、直近5年に世界中で問題となっていた「プラットフォーム vs プロバイダー(UberEatsの場合の配達員)闘争」が、ついに日本上陸を果たした初めの一歩にも思えます。

ギグ・エコノミーのこれから
最後に、Uberのようなプラットホームのアンチテーゼとして期待できる新しいプラットホームの在り方として、2つのトレンドを紹介します。

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一つは”パッションエコノミー”と呼ばれる、ネットワーク内のプロバイダーへより権限・裁量を与えることで、各提供者による差別化を可能にするSaaSモデルのプラットフォーム。豊富な営業ツールを提供し、料金設定の自由化を行うことで、プロバイダーのユニーク性・直接的な営業スタイルを促進します。

結果的にコモディティ化しづらく、サービス価格設定をプラットフォーム側に握られない健全なプラットフォームが形成されます。

<参考記事>

いま米国で注目される新トレンド「パッション・エコノミー」とは?ーー 個性を売りにする“マイクロ起業家”

そしてもう一つが、利益を目指さない、調和を重視する”協同組合型”のプラットフォーム。ローカルな組合組織を形成し、手数料は低く設定することでプロバイダーを保護。またサービスの仕様変更などに関連するコミュニティの意思決定も、参加者全員の協議・投票により民主的に決定されるプラットフォーム。

事例としては、AirBnBの代替案としての「FairBnB」や家事代行シェアリング「Upandgo」、ドイツのオンライン・マーケットプレイス「FairMond」などがあげられます。どれも組合型を志向しており、共同運営・正当な収入などの利点を重視しています。

以上2つの事例は、Uberのようにスケールするかと言われれば難しいでしょう。前者は専門性や能力主義に基づいているため、急速なプロバイダーの増加を促すことはできません。一方で後者はスケールを目指しておらず、またガバナンスの構造上意思決定プロセスに時間がかかるという弱点を持ちます。

ですが、Uberのような行き過ぎたプラットフォーム・モデルに対抗するプロテスト運動として、オルタナティブなプラットフォーム・モデルとして非常に魅力的で、その発展には期待が高まります。

 

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