6月4日、ニューヨーク在住の日本人ジャーナリスト、肥田美佐子さんが、労働権に関するすぐれた記事に与えられる「ILOジャーナリスト賞」を受賞しました。これはイタリアのトリノに本部のあるILO国際研修センター(ITC-ILO)によって組織された第1回研修コースに世界から参加したプロのジャーナリスト15人の報道記事から最優秀作品として選ばれたものです。
受賞した記事は、“the Land of Karoshi”というタイトルで、ニコン熊谷製作所に業務請負会社から派遣されて働いていた上段勇士(うえんだんゆうじ)さん(当時23歳)の過労自殺事件を取材したものです。2005年3月31日、東京地裁で、母親の上段のりこさんが派遣元、派遣先の両方を訴えて起こした裁判の勝訴判決がありました。判決は請負と言いながら実質的には派遣である「偽装請負」の実態を指摘し、ニコンの企業責任を問い、雇用主の業務請負会社アテストと連帯して損害賠償をするよう命じました。また企業の安全配慮義務違反を認定しました。この裁判は被告が控訴したため、現在、高裁に持ち込まれています。
この事件は、派遣労働で起きた過労自殺として、また派遣労働の裁判による最初の労災認定として、日本のマスコミでも注目されてきました。それを取り上げた記事がILOのコンペで受賞したことは、日本の過労死問題の国際的発信として大きな意味を持っています。
今年は1988年に始まった「過労死110番」の20周年です。20年前に欧米のメディアによって日本のkaroshiが報じられ、2002年1月にはオックスフォード・オンライン英語辞典に“karoshi”が日本発の英語として載りました。意味は、“death brought on by overwork or job-related exhaustion”(働きすぎまたは仕事に関連した極度の疲労によってもたらされる死)となっています。今日では日本だけでなく、アメリカ、イギリス、韓国、中国などでも過労死が問題になっています。ILOが肥田さんの過労死記事に注目したのも、世界に広がる働きすぎを世界の労働・人権問題として重視しているからだと思われます。
肥田美佐子さん: アメリカ在住の日本人ジャーナリストとして、『週刊エコノミスト』をはじめ日本の雑誌に寄稿。ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス』(岩波書店)、デイビッド・K・シプラー『ワーキング・プア』(岩波書店)、などの共訳もある。