最低賃金改定にかかわる情報(全労連)

1.中央最低賃金審議会 −諮問をめぐり労使火花
1) 7月2日(金)16時より、2010年度の最低賃金の引き上げ額を討議する、第31回中央最低賃金審議会が開かれ、長妻厚生労働大臣の諮問がおりた。文面は「平成22年度地域別最低賃金額改定の目安について、雇用戦略対話における最低賃金の引上げに関する合意(平成22年6月3日 雇用戦略対話第4回会合)を踏まえた、貴会の調査審議を求める」というもの(発基勤0702第1号)。厚労相は審議会に出席し、諮問について次のように述べた。
 「これまでと違うのは、雇用戦略対話における引上げに関する合意をふまえた議論をお願いしているところである。これについては、6月3日に中長期的な目標が政労使で合意されている。『2020年までの、できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指すこと』というものである。この目標は『2020年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長が前提』とされている点がポイントである。できるだけ早期に全国最低800円に到達することが目標とされたが、多くの地方では600円台である。こうした道県でも、十分な議論をお願いする。もうひとつは、生活保護との乖離是正である。都道府県の乖離のリストがでているが、できる限り早期の乖離解消をお願いしたい。今回の審議は、難しい場面を迎えることもあると思うが、公労使で十分な議論をお願いしたい。」
 厚生労働大臣の臨席によるメッセージの伝達は、増添前大臣時代には一度もなく、柳沢元大臣以来、久しぶりである。経済成長率などの限定付けはあるが、審議会には、「引き上げに向けた調査・審議をすべし」という明確なタスクが課せられたことになる。報道の扱いもそうであり、この日の夕方開催された、東京地方最低賃金審議会における労働局長の説明でも、そうであった(「タガがはめられた」と表現された)。

2)大臣退席後、今野会長から目安小委員会を設ける提案があり、了承され、さらに公益の勝委員から、小委員会の会長として、今野会長が兼務する提案があり、了承された。
 会長から「目安の審議に関して質問は?」と水を向けられると、使用者側から声があがった。
「諮問文の意味について質問したい。合意を踏まえてと大臣はおっしゃったが、審議会の議論は、最賃法9条にある3つの要素と、さらに生活保護との整合性をふまえて審議するのが、あくまでも基本ではないか。その上で、雇用戦略対話にも配慮するといったことでいいのか?」
 これに対し、会長は事務局からの答弁を求め、事務局は「今回の中賃審議会はあくまでも最賃法に基づくもので、3要素を考慮するというのが大前提である」と回答した。

3)その後、さらに使用者側から意見がでた。「大臣は、雇用戦略対話の目標を踏まえて議論をと話されたが、平均で名目2%、実質3%の経済成長が前提との指摘があった。これが極めて重要だ。また、合意には『弾力的な対応』とある。経済・雇用情勢や経済成長・生産性をふまえ、3年後の見直しなど弾力的な対応が必要されている。弾力的な対応を十分ふまえた審議が必要であることを、力をこめて申し上げたい。」引き上げベースでの審議に対する明確な牽制である。
これに対し、労働側委員は「発言をするつもりはなかったが、言わせてもらいたい。雇用戦略対話で十分議論をされてきた内容だ。経営側として、様々な思いがあるだろうが、史上初めて目標数値について労使で合意が成立したことは重い。」引き上げに予防線を張る経営側に対して、釘を刺した。
 その後、使用者側からは、目安の審議の話以外の要望として、「最低賃金の地域別ランクの議論が中断されている。目安審議後、すみやかにランクの見直しの議論をしてほしい」との意見があがり、会長が確認して審議会は散会となり、第1回の目安小委員会に移った。

2.全労連の取り組みと到達 −夏のたたかいへの結集を!
1)2010年の全労連最賃闘争のポイントは、従来とは異なり、春闘期の取り組みとして「請願署名」を武器に、政権党を中心に、議員要請を数次にわたり、粘り強く行なった点にある。昨年9月の総選挙時、民主党がマニフェストに掲げた「全国最賃800円、平均最賃1,000円」の公約は、通常国会中に存在感を薄められ、雇用戦略対話の中でも、後回しにされかけた。そこで、全労連は春闘方針において、参院選前に再度、最賃を重要課題として浮上させ、審議会に対して「最賃引上げに向けた政治の意志」を引き出すことを、当面の目標として行動を行なった。この間の最賃デーとして、4.21国会集中行動、5.19中央行動、6.22全国行動を行なってきたが、前2回の行動は、労働者派遣法の抜本改正などの課題とあわせ、国会に向けた行動に重きをおいた。

2)こうした取り組みの結果、すでに述べたように、中賃審議会の諮問において、最賃引き上げに向けた政治の意志が、政労使合意のカタチで示されることになった。このことは、私たちの運動の成果として、確信にすべきものである。もちろん、雇用戦略対話の合意は、政権公約を10年先送りする不十分な内容であり、到底そのまま認めることはできない。労使合意文書にある「できるだけ早期に」という文言を履行させ、地域別最低賃金の大幅引き上げと、全国一律最低賃金制の導入に向けた最低賃金法の改正を行なわせるべく、我々の運動もさらに強化する必要がある。

3)労使合意となった「最近引き上げ目標」の達成に向けた最初のステップを記す、この夏の中央・地方最低賃金審議会の動向はきわめて重要である。引上げ基調の調査審議という流れが課せられた中賃審議会に対し、多くの労働者の切実な要求を示し、まずは、地域別最賃の大幅引上げと、この間、開いてきた地域間格差の是正の方向が明らかとなる目安答申を引き出す必要がある。
諮問のおりた中賃審議会は、直前の日程公開だったが、全労連・国民春闘共闘は緊急の行動を提起し、15時30分より、厚労省前で中賃審議会に向けた宣伝行動を配置し、40名(国公労連、自治労連、全教、全労連・全国一般、生協労連、福祉保育労、東京春闘共闘)が参加した。司会を井筒常幹、情勢報告を伊藤常幹が行い、生協労連桑田委員長、全国一般遠藤中執、国公労連植田中執、東京春闘共闘影山事務局次長がたたかいの決意表明を行なった。その間、労側委員は人事院の前から全員が、使側と公益委員は一部が、1F正面から入館し、シュプレヒコールは9階省議室でもよく聞こえ、審議会に対する強いアピールとなった。

4)また、こうした要求・宣伝行動に加え、全労連は、次のような課題に取り組んできた。
?中小企業対策・支援策についての政策を拡充させ、最低賃金引上げの「前提」とされることの多い中小企業対策を、最賃と同時に実施すべきものとして、政策順位の修正を求めてきた。労働総研の協力をえて「産業連関分析」を実施し、それを諸外国の経験とあわせて示すことで、最賃の引上げが、中小企業対策そのものとして有効であることを明らかにし、こうした主張が、全労連や労働総研だけでなく、学者・エコノミストや経営者の中にもあることを資料としてまとめた。また、「生活できる最賃の確立」が適正な下請単価設定の要であり、下請二法や、独禁法の特別指定の改正等、公正競争ルール設定の要諦となること、景況の厳しい状態をふまえれば、臨時的な中小企業支援策を打ってでも最賃引上げは実施するに値することを強調した。

?また、この間、地方組織や金澤佛教大学教授ら学者・労働総研との協力で、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活をおくるために必要な最低生計費」の試算の取り組みを充実させてきた。京都、首都圏、東北、静岡、九州(予定)と試算を広げ、最賃の議論に関わって特に重要となる20代単身モデルの結果を発表、「必要最低生計費は、地方によって消費支出の内容(費目ごとの金額)には違いはあるが、総額としてはほぼ一定であり、可処分所得としては各地方で最低17万円強、税・社会保険料を含めた賃金ベースでは23万円程度であること」を明らかにした。これは、全国一律最低賃金制の導入が、可能であり、かつ、妥当であることの根拠として注目を集め、「物価が違うから地域によって最賃の差はつけてもよい」という考えを揺さぶりつつある。

?各地で取り組んでいる非正規の仲間を支援する活動や、“派遣村”活動で得た経験をもとに、“働いていても生活保護を受給されてしまう実例”に注目し、低すぎる最低賃金を生活保護でカバーすることでいいのか、という問題提起をしてきた。大阪でまとめた3つの「就労しつつ生保受給をしている事例」は、先の国会で、小池晃議員によって参議院厚生労働委員会の質疑で公にされた。改正最低賃金法に規定された「最賃と生活保護との整合性」が、運用において骨抜きにされている現実問題を、広く世間に告発することができた。
 
?中賃審議会対策として、全労連は、この間、中賃の使用者側委員ならびに、公益委員に対して丁寧な懇談を行ない、全労連の最賃に関する要求と政策についての理解を広げる努力を行なってきた。委員とは、前項までにふれた中小企業対策案や、最低生計費試算結果、厚労省による生活保護と最賃の整合性算定方式の“誤り・まやかし”について、じっくりと討論した。経済全体の回復を見据えた全労連の提案について、完全な合意とはいかずとも、一定の理解を委員の間に広げることができた。

4)以上、最低賃金審議会の山場を前に、春闘期から全労連が取り組んできた最賃闘争の到達をふりかえった。私たちの運動は、2007年の最賃法改正において要求の前進を勝ち取り、さらに「最賃1000円要求」を与野党各党のマニフェストに盛り込ませることに成功した。2010春闘では、議員要請や各党県連訪問などに奮闘し、最賃課題を国政主要課題に再度、押し上げた。その流れは、雇用戦略対話での政労使合意の成立や、それをふまえた最賃引き上げの諮問へと結実している。
次は、金額の大幅引き上げの実現である。この間の単産・地方組織の仲間の努力は、厳しい経済情勢にもかかわらず、最賃闘争をめぐる情勢を有利に変えつつある。それが具体的な成果をもたらすよう、この夏の最賃闘争への積極的な取り組みを呼びかけるものである。
以上

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