「卒業後3年 新卒に」 日本学術会議検討委が提言
日本学術会議の検討委員会(委員長=北原和夫・国際基督教大教授)はこのほど、早期化する就職活動が大学教育の質に影響を及ぼしているとして、卒業後も3年ほどは新卒扱いとして採用活動をするよう企業に求める提言をまとめ、文部科学省に提出した。今後、採用や人材育成のあり方などについて産業界とも継続的に議論していくという。
同会議は、国内の人文社会・自然科学者の代表機関。文科省の依頼で大学教育の質を高める具体案を検討してきた。
その中で、就職のあり方に言及。新卒時に就職できないと、正社員として就業できる道が極端に狭まることを問題点として挙げた。対策として、卒業後3年ほどの既卒者について、企業が新卒として扱うことや、大学にも在学生と同様の就職支援をすることなどを求めた。
また、地方に住む学生が大都市圏で就職活動をする際の経済的な負担が大きいことも挙げ、宿泊費や交通費の補助制度の新設も提言した。
学部教育の質向上のため、各大学がカリキュラム編成をする上での基本となる考え方(参照基準)を同会議がつくる方針も示した。今後3年かけて、法学や生物学など約30分野ごとに、学生が4年間で最低限習得すべき知識や能力などの基準を作成。各大学の独自性も尊重しつつ、基準を参考にカリキュラムをつくるように呼びかける考えだ。
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■学ぶ基準づくり 自ら担う
《解説》日本学術会議が17日に公表した提言は、早期就職活動が大学教育に及ぼす弊害をなくすために、たとえば卒業後3年間は新卒扱いするよう求めたことで注目された。大学教育の質向上といっても、企業の人事政策など大学自身では解決できない要素がかかわっているのだから、その意味は重い。提言が空論にならないように、学術会議のレベルを超えた大学団体や経済団体への働きかけが必要になり、実効あるものにしなければならない。
しかし、今回の提言には、就職活動以上に重い意味をもつ本筋の提言がある。各大学のカリキュラム編成の参考になる「参照基準」を学術会議がまとめるという考え方だ。
背景には、カリキュラムの編成や学問の定義を決められないと、学ぶ対象があいまいになるという問題意識がある。学術会議の「基準」があれば、それをもとに各大学に教育の核をつくってもらうことが可能になり、全体の質の底上げにつながるというわけだ。
学者や学会の代表機関である学術会議が自ら教育の質向上に乗り出したことは画期的ではある。しかし、まだ理念的段階にとどまる。さまざまな大学で使えるように、参照基準のまとめ作業はスピード感と現場への還元が意識されなければならない。(編集委員・山上浩二郎)