「毎日新聞」2011年12月13日
私立「浪速高校・関西大学連携浪速中学校」(大阪市住吉区)を経営する学校
法人「浪速学院」(住吉区、当時は大阪国学院)が08年9月、未払いだった過
去2年半の時間外手当のうち10%だけを支払い、残額を放棄することで教職員
側と合意していたことが分かった。毎日新聞が入手した文書などによると、「年
間1000万円以上の手当発生が見込まれ、財政負担に耐えられない」と教職員
に理由を説明しているが、学校法人で経営者側が労働者側に残業代の未払い分の
放棄を求めるのは異例。【林田七恵、日野行介】
関係者によると、大阪南労働基準監督署が08年春、浪速学院を立ち入り調査、
06年4月〜08年8月分の多額の時間外手当の未払いを把握した。内部からの
申告があったとみられる。
木村智彦理事長(兼校長)は全教職員のうち、未払い分があった約90人の教
職員に「お金がない。経営に協力してほしい」と要請。未払い分のうち、10%
を支払い、残りは債権放棄に合意する書面に押印するよう求めた。未払い額は多
い教員で150万円以上といい、放棄の総額について浪速学院は「約2500万
円」としている。
◇拒否教員「降格」
毎日新聞の取材に、ある教員は合意した理由を「木村理事長からの圧力があり、
やむを得なかった」と説明した。また、放棄を拒否したという男性教員1人は
「全額が支払われたが、学年主任から降格になった」と話している。
労働基準法は時間外労働について、通常の1時間当たり賃金に25%以上50
%以下を割り増しするよう規定。大阪労働局は「一般論として、刑事処分の対象
ではないが、正しい方法と言えない。合意しないことを理由に降格したのなら、
一方的な労働条件の不利益変更で労働契約法違反」と指摘している。
毎日新聞の取材に、浪速学院側は「一定割合について債権放棄を依頼したが、
同意を得た教職員に対してのみだ。該当する教職員には特別賞与などを支払って
いる」とし、降格されたとの教員の主張には「本人の同意によるものであり、債
権放棄とは関係ない」と文書で回答した。
浪速学院は09年6月、関西大と職員交流に関する連携協定を締結。関係者や
ホームページによると、今回の問題対応中は連携に向けて協議中だったが、未払
い分の放棄については関大側に報告していなかった。
◇理事長高報酬、補助金カット
浪速学院の木村智彦理事長(65)は2300万円以上の年収を受け取ってい
た。それを理由に同学院は大阪府から年間700万円以上の補助金(私学助成)
を削減された。教職員の一部からは「我々は時間外手当が削られ、年収が下がっ
た。自分ばかり高額をもらって許せない」との声も上がっている。
府は09年度から、私立高校を運営する学校法人で、1600万円を超える役員報
酬を与えていた場合、超過分を私学助成から減額。府への情報公開請求で開
示された資料などによると、同学院に対する私学助成は09年度約740万円、
10年度約780万円減額されている。同学院で役員報酬を受けているのは木村
理事長だけだった。
浪速学院側は「報酬は理事会で決定したもの。10年度分から大幅に削減して
いる」と説明している。
木村理事長は06年12月、浪速学院の理事長に就任、07年4月から浪速高
校・関西大学連携浪速中学校の校長も兼務している。02年4月、関西の公立高
校で初の民間人校長として大阪府立高津高校の校長に就任したが、教職員らが
「怒鳴られてうつ状態に追い込まれた」などとして人権救済を申し立て。06年
3月に辞職した。
◇悪質な違法行為−−脇田滋・龍谷大教授(労働法)の話
時間外手当を債権放棄させたことは大きな問題だ。子どもに権利を教えるべき
学校がすることではない。さらに拒否した教員を降格させたのなら、二重三重の
違法行為。こんな悪質な話は民間企業でも聞いたことがない。