大阪市の橋下徹市長が活性化に向けた特区構想を打ち出した同市西成区で、生活保護受給者が働いて得た収入を行政側で積み立て、生活保護から抜ける自立時に一括返還して初期生活費に充ててもらう制度を導入するという改革案を、特区構想担当の市特別顧問、鈴木亘・学習院大教授(社会保障論)がまとめたことが7日、分かった。区民の4人に1人が生活保護受給者という状況の中、受給者の就労・自立を促し、市財政を圧迫する生活保護費の縮減にもつながる一石二鳥の案としており、鈴木氏は近く橋下市長に提示する。
不況を背景に、生活保護受給者数は全国的にも過去最多の更新が続いており、厚生労働省も同様の制度創設の検討に入ったが、自治体の事務量増大などの課題がある。西成区で制度が導入されれば全国のモデルケースとなる可能性もあり、成否が注目される。
現行の生活保護制度では、原則として受給者の就労所得などが増えるとその分保護費がカットされるため「労働意欲の向上につながらない」との指摘がある。また、受給者が自立すると、それまで不要だった公的医療の保険料や医療費の窓口負担などが必要となり、自立時の生活費を圧迫する実情もある。
人口約12万人の西成区の生活保護受給者は、今年1月現在で2万8412人にのぼり、大阪市全体(15万2703人)の2割近くを占める。市の受給者数は全国の市町村で最多で、平成23年度予算ベースでの生活保護費は、一般会計全体の約17%に当たる2916億円に達し、市財政を圧迫。縮減が喫緊の課題となっている。
トップエリート校誘致も
西成特区構想に向けた鈴木氏の改革案には、ほかにもトップエリート校の分校誘致など斬新なアイデアが盛り込まれている。橋下市長は、生活保護受給率や高齢化率が高い同区を一つの縮図ととらえ、「西成が変われば大阪、日本が変わる」として子育て世代誘致のための税減免などにも取り組む構えを見せており、今後描かれる街再生のための青写真が注目される。
国がまとめた2035年の人口推計予測によると、西成区の人口は現在の約3分の2の8万人台に落ち込むとされる。中でも、日雇い労働者が多い「あいりん地区」では、現在の4割以下の7千人台に落ち込み、15歳未満が1%台となる一方、高齢化率は48%に達すると推測されている。
平成17年の国勢調査によると、同区は高齢者人口に占める単身高齢者の割合が日本一の60・7%。中でもあいりん地区で高い割合を示しており、新たな人口流入を生み出すことが大きな課題となっている。
鈴木氏は改革案で、灘高校のようなトップ進学校の分校設置などによる高レベル教育の提供を提唱。治安対策を強化し、子育て世代にとって魅力あるハード、ソフトを整備すべきだとしている。また、外国人バックパッカーらによる簡易宿泊所などの利用が増えている点にも注目し、産業としての観光振興も提案する。
鈴木氏は「負の部分に蓋をする施策ではなく、将来の方向性を打ち出し、明るい施策を考えるべきだ。懐の深い街の特性を生かした西成の未来を、特区で実現したい」としている。