自殺者をなくす年間なお2万7千人(下) 若者SOS気付いて

2013/01/23 日本経済新聞 朝刊

. いじめ・就活失敗で増加
自殺者数は昨年まで3年連続で減ったが若者に限ると増加傾向にある。昨年1〜11月の月ごとの暫定値を合計すると、20代以下の自殺者は3136人。年間自殺者数が同じく3万人以下だった1997年の通年(3003人)を既に上回った。この間の少子化で、20代以下の人口は1千万人以上減っており、自殺率はさらに高まっている。

 当時と変わらないのは10代の自殺の主因が「いじめ」であることだ。

 「娘の香澄は15年前にいじめを受けて自殺したんです」

 15日、雪が残る千葉県佐倉市の染井野小学校。底冷えする体育館で約330人の児童が身じろぎせず、いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里さん(56)の言葉に耳を傾けた。

 小森さんは、いじめは「以前に比べて陰湿化している」とみる。子供たちに急速に広まった携帯電話が背景にある。「裸の写真をインターネットに流すぞ」と脅された中学生の話も聞いた。

 「ネット社会では傍観者はいつ次のターゲットになるかわからない」が親や教師は見つけにくい。小森さんは自身の体験を全国で語り続け、22日で1千回を数えた。

 20代では就職先が決まらないことを苦にした「就活自殺」が増えている。昨年の動機別の自殺者数はまだ集計されていないが、2007年は13人だったのが、10年以降は40人以上と高止まりしている。関西大経済学部の森岡孝二教授は「発表数は遺書などで特定できた人数で、実際はもっと多い」と指摘する。

 対人関係の難しさも若者を追い詰める。「メールの返事が来ないだけでイライラして死にたくなります」。「いのちの電話」の相談にはそんな声が寄せられる。ただSOSをキャッチするのは容易ではない。

 「若い人からはあまり電話が掛かってこない」。社団法人「日本いのちの電話連盟」の岡本正子事務局長は声を落とす。71年の発足当時は2割を占めた10代からの相談は現在3%。「以前は面談を嫌がり電話してきたが、今の若者には電話でもハードルが高いのかもしれない」。メールでの相談はまだ試行段階だ。

 若者の自立支援に約30年取り組んできた「青少年健康センター」の斎藤友紀雄会長は「若者の自殺は時代を映すバロメーター」と話す。ネットやニュースを通じて自殺が連鎖しやすいのも「普段から緊張状態に置かれている表れ」だという。
斎藤さんらは昨年、長年の経験を自殺予防に生かそうと、精神科医らが電話や面接で相談に応じる「クリニック絆」を立ち上げた。相談は半年で100件。「若者が発するサインに気付き、社会全体で受け止めていくしかない」と訴えている。
【表】若者の悩みを受け付ける主な相談窓口   
▼   東京いのちの電話
(電)03・3264・4343
▼   関西いのちの電話
(電)06・6309・1121
いずれも24時間365日
▼   クリニック絆
(電)03・5319・1760
平日午後1時〜午後6時
▼   チャイルドライン(18歳以下)
(電)0120・99・7777
月〜土曜の午後4時〜午後9時

この記事を書いた人