iPhoneなど米アップル製品を生産する中国の委託先工場で頻発した労使問題をめぐり、米独立監査機関の公正労働協会(FLA)が3月、アップルに行った是正勧告が、労働集約型工場を中国にもつ外資系製造業に波紋を広げている。(フジサンケイビジネスアイ)
是正勧告を受け、労働環境の大幅改善に取り組むアップルがめざす「成果」が中国でモデルケース視されると、「中国での工場運営が立ち行かないほどのコスト上昇になる」(日系電子機器メーカー社長)からだ。
製造委託先の工場を運営する台湾の親会社は4月下旬、勤務成績の良い中国人従業員200人あまりを選抜。7日間の豪華な台湾旅行に招待したほか、日本円で10万円近い報奨金やiPhoneを手渡すなど早くも大盤振る舞いした。
最新型のiPhone4Sの場合、販売価格に占める中国での加工組み立てコスト比率は3%かそれ以下とみられている。価格約500ドルとして、中国の製造委託先に渡る対価は1台15ドルに満たない。一方、アップル側の粗利は1台当たり65%前後、320ドル以上もあるとされ、賃上げなど待遇改善の余力は大きい。
だが日系電子機器メーカーの社長は「中国で生産する製品の粗利はせいぜい30%。(工場のある)地元当局や労組側にアップルのケースを持ち出されて同レベルの待遇を要求されたとしても、(日系企業には)応じる余裕はない」というのだ。
そもそもアップルの製造委託先における労働環境を、日系企業のそれと同一視することはできない。
勤務成績の良い中国人労働者を台湾に招いた親会社は、電子機器受託製造の世界最大手、鴻海精密工業。その中国法人、富士康(フォックスコン)がアップル製品の製造を一手に引き受けているが、広東省深センの工場などで若い労働者の飛び降り自殺が相次ぎ、問題視された。
心労が原因とされるが、「軍隊式管理のプレッシャーに、農村から出稼ぎに来た若者は耐えらず、待遇の悪さも労働力の搾取といっていいレベル」(台湾系メーカー幹部)との指摘がある。四川省成都の工場では昨年5月、アルミ片のずさんな管理から起きた爆発で 3人が死亡する事故も起きた。
FLAが今年1月から、深センなど3カ所の工場で、約3万5000人の従業員への聞き取り調査を行った結果、過剰労働や健康被害、賃金問題など、労働環境をめぐる違法行為やFLA規則違反が50件近くみつかった。
安価で大量な労働力を中国に期待する時代は過ぎ去りつつある。アップルが中国でそうした問題点を見直すことは中国の労働者にとっては一歩前進だ。だが低い発射台からのアップルの改善幅が数字として独り歩きすると、すでに一定の待遇を労働側に与え、改善を繰り返してきた日系企業など他の外資系製造業には頭の痛い問題となる。(上海支局長 河崎真澄)