介護業界が若年層をターゲットに魅力発信の取り組みを続けている。厚生労働省が発表した昨年11月時点の介護職の有効求人倍率は3・40倍で、月ごとの集計を始めた2012年3月以降で最高値を記録した。昨年全体を通じた平均値も介護保険制度が始まった00年以降、最も高い。慢性的な人手不足を打開する特効薬は――。
特集:介護とわたしたち
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「うわ、ドスンッとした。お尻が痛い!」。車いすに乗った男児が叫んだ。床に敷かれたマットを段差に見立て、慣れない手つきで車いすの操作に挑む児童らに介護福祉士の女性が優しく諭した。「ゆっくり押してあげてね。おじいちゃん、おばあちゃんがびっくりするよ」
茨城県ひたちなか市の市立市毛小学校で11月11日の「介護の日」に開かれた介護体験教室。4年生89人が参加し、アイマスクをつけて歩いたり、車いすに乗ったりした。4年生の津久井月菜さんは「足が不自由なおじいちゃんの気持ちがわかった。進む時は声を掛けて、ゆっくり押して安心させたい」と話した。
介護大手のニチイ学館(東京)がお年寄りや介護職員の気持ちを知ってもらおうと、09年から全国の小中学校や高校で開いている。担当者は「介護が身近にあると知ってほしい。お年寄りを支えるうえで、若い力は不可欠」と話す。これまでに350回以上にのぼり、約1万4千人が参加した。
有効求人倍率は、求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す。厚労省によると介護職の月別の倍率は14年以降、おおむね2倍台が続き、15年12月に初めて3倍台に突入。昨年11月は3・40倍で、全職種平均の1・31倍を大きく上回る。
背景には、介護業界を志す人の数が需要増に追いつかない事情がある。同省は、「団塊世代」がすべて75歳以上になる25年度には介護従事者が約38万人不足する恐れがあるとみる。
■深刻な若年層不足
深刻なのは若手層の薄さだ。公益財団法人「介護労働安定センター」の15年度の調査では、30歳未満の介護従事者は全体の約12%。入社1年未満での離職率は40・2%、1年以上3年未満は34・6%と高い。辞めた理由では「他に良い仕事があった」「収入が少ない」「将来の見込みが立たない」などの回答が目立つ。
厚労省は昨年7月、待遇を改善するため、17年度に介護報酬を1年前倒しで改定する方針を固めた。だが担当者は「介護職の専門性を明確にし、将来の展望を描ける環境を整えたいが、仕事のきつさや低賃金という従来のイメージをぬぐい去るには壁がある」と話す。
介護団体などが加入する「認定介護福祉士認証・認定機構」は、介護福祉士のキャリア形成につなげようと、さらに専門性の高い上級職「認定介護福祉士」の導入へ動いている。
自治体や業界も動き出している。25年に約6千人の介護従事者が不足すると推計している岡山県は、13年度から中学、高校へ介護福祉士を派遣する「出前講座」を主催。これまでに19校980人に教室を開き、若者の人材発掘に乗り出している。
日本介護協会が11年から毎年末に開いている「介護甲子園」は、職員同士が介護の技法や魅力を発信し、やる気ややりがいを奮起させようとするイベント。昨年は全国から約5千団体がエントリーし、培ったスキルを競った。参加は第1回大会の30倍余りに増えた。
協会の左敬真理事長は「『介護は未来産業』と言ってもらえるように、まずは業界のイメージをよくし、職種のステータスを向上させたい。現場に関わる仲間と一致団結して盛り上げる」と話す。(池田良)