長時間労働と叱責で自殺 広島の21歳、労災認定 (5/4)

広島)長時間労働と叱責で自殺 広島の21歳、労災認定

 朝日新聞ディジタル 橋本拓樹 2019年5月4日03時00分

 
写真・図版 亡くなった栗栖祐磨さん。めいに会うといつも抱きかかえて可愛がっていた=遺族提供
 
 広島市の電気工事会社で働いていた男性が2016年、自ら命を絶った。長時間労働や、元請けの清水建設側の叱責(しっせき)による労災と認定された。損害賠償を求めて遺族は電気工事会社を提訴。清水建設側も参加して訴訟が続いている。(橋本拓樹)
 亡くなったのは栗栖(くりす)祐磨(ゆうま)さん(当時21)。訴状などによると、栗栖さんは2015年に大栄電業(広島市西区)に入社し、16年5月から清水建設が元請けの工事で施工管理を担当。同年8月12日、清水への派遣社員で、現場監督だった男性から強く叱られ、早退した。以来出社せず、15日に行方不明となり6日後に市内のダム湖で亡くなっているのが発見された。
 広島中央労基署の調査によると、同年5月28日から翌6月26日までの時間外労働は95時間10分。6月は13日間の連続勤務があった。
 現場監督は栗栖さんに「なんやその目つきは!帰れ!」と言ったほか、トラブルの対処をめぐり「いつ直すんや。いつできるんや」「担当を代われ!」などと強く叱責した。現場監督は、ほかの大栄電業社員ら下請け業者への口調も厳しかったという。
 こうした経緯から、労基署は長時間労働と叱責が原因で精神障害を発症し、自殺したと判断。労災と認定した。
 遺族は昨年8月、大栄に計約7800万円の賠償を求める訴訟を広島地裁に起こした。大栄側は争う姿勢を示す一方、同社の代理人弁護士や書面によると、「現場監督による暴言の内容は知らされていない。不法行為か安全配慮義務違反が成り立つなら清水建設は外せない」と主張。訴訟告知の手続きをとり、清水建設や現場監督、派遣元の会社が訴訟に補助参加した。
 補助参加した清水建設などは大栄電業側に立って遺族と争う。一方、遺族側の訴えが認められれば、大栄は賠償金の一部を清水建設らに求めることができる。
 過労死弁護団全国連絡会議・代表幹事の松丸正弁護士(大阪弁護士会)は「元請けと下請けの間には上下関係があり、暴言などを受けやすいが、表に出づらい」と指摘。「長時間労働と暴言という二つの要因がそれぞれ元請けと下請けにわかれていることや、責任の一部を引き受けるよう下請けが元請けに求めるケースは珍しいのではないか」という。
 原告側代理人の佐藤真奈美弁護士(広島弁護士会)は「元請けの責任が認められれば、泣き寝入りしていた下請けの人も『声を上げていいんだ』と思えるかもしれない。元請け側も労務管理を改めるようになるといい」と話している。
 栗栖さんは3人きょうだいの次男。兄(30)によると、家族思いで、彼女とは将来的な結婚の話もしていたという。
 亡くなったダムの近くには、祖父の家がある。栗栖さんは足しげく訪れ、畑仕事や寺や川の掃除も手伝った。明るい性格だった栗栖さんの様子がある日、変わった。家族が声を掛けても「んー」と生返事ばかり。表情は固く、疲れ切っている様子だった。遺体が見つかったのは、それからわずか数日後のことだった。
 兄は、大栄電業や清水建設の姿勢に「自分たちは知らないと責任逃れをしている」と感じている。昨年10月に出廷し、意見陳述で裁判官にこう語りかけた。「仕事を頑張ろうと思って入った若い社員が、仕事のせいで死を選ばないといけないという事態は、絶対にあってはならない」
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 訴訟告知 民事訴訟の当事者が、利害関係がある第三者に対して、訴訟中であることを通知する制度。第三者の参加は任意だが、訴訟告知をした側が敗訴した場合に責任を分担することになる。損害賠償を命じられた当事者は、第三者に求償することができ、第三者は訴訟の判決や判断内容を改めて争うことができない。
 

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