「まともに休めた日ない」コンビニ、便利さの裏に…
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201905/0012345186.shtml
2019/5/19 12:15 神戸新聞NEXT
〔写真〕酒井孝典さん=姫路市内(撮影・秋山亮太)
コンビニエンスストアの24時間営業が揺らいでいる。人手不足から営業短縮を求めるフランチャイズ(FC)加盟店と、現体制を維持したい各社の経営本部が対立し、問題が表面化。姫路市に店を構える酒井孝典さん(58)は、加盟店でつくる「コンビニ加盟店ユニオン」(岡山市)の執行委員長として、FC店店主の待遇改善と24時間営業の見直しを訴えてきた。酒井さん、今、業界で何が起きているんですか−。(末永陽子)
−コンビニ数は全国で約5万5千店舗に上ります。私のような1人暮らしの人にとって「冷蔵庫」といえる存在です。
「お弁当や生活用品の販売だけでなく、宅配便やクリーニングの受付、現金自動預払機(ATM)管理、さらに行政サービスを担う店もあります。災害が起これば、救援物資の確保や商品供給、帰宅難民者の支援などが加わり、役割は増えるばかり。今や立派な『社会インフラ』です。働く女性や単身高齢者の利用が増え、客層も幅広い。ただ、その便利さの裏で、私たちFC店店主は過重労働や経営悪化に苦しんでいます」
−営業時間をめぐり、大阪府東大阪市のセブン−イレブン店主と経営側が対立したニュースが広く報道されました。
「東大阪市の店主は一緒に働いていた妻が亡くなり、勤務時間が連日16時間超に。やむを得ず営業時間を短縮すると、経営本部から契約解除と違約金を求められました。報道によって業界が抱える問題が明るみに出ましたが、氷山の一角にすぎない。ユニオンには、長時間労働や過労死に関する相談が多く寄せられています」
「店主は事業主とされながら、『年中無休、24時間オープン』が定められ、営業時間の裁量はありません。売上高から商品原価を引いた粗利益のほぼ半分を経営本部に渡し、さらに人件費や光熱費、食品廃棄ロスなどを引いた分が営業利益です。場所によっては深夜の売り上げが少なく赤字になる店も。ユニオン加盟店の約4割が店主夫婦だけの勤務で年収400万円以下というデータもあります」
−長時間労働の背景について教えてください。
「人手不足が深刻です。時給を上げて求人を出しても人材が集まらない。店舗の増加や他業種との競争激化で売上高は変わらないのに、人件費の高騰で利益は圧迫されています。個人的には24時間営業を続けたいですが、利益が残らない。借金を抱えて廃業に追い込まれる店主もいる。選択制の導入など柔軟な対策が必要です」
「私自身、1カ月の労働時間は平均で350時間。経費削減のため、週に3〜4日早朝までの夜勤に入っています。2003年に店を開いてから、まともに休めた日は一日もありません。全国で約80万人の非正規労働者の受け入れ先とされるコンビニの存在意義は大きい。社会インフラとして維持するには業界の改革が必要です」
−大手コンビニ各社の間では、レジの省力化や営業短縮の実験に乗り出す動きがあります。
「抜本的な解決には至っていません。24時間営業の損失やリスクは加盟店が背負ったまま。弱い立場であることに変わりはない。24時間を前提とした生産や配送体制の見直しが必要と考えています」
−これからユニオンの運動をどう展開していきますか。
「ユニオンは09年に設立し、約100店舗が加盟しています。私たちは労働者でもなく、経営者でもないという中途半端な立場。大きな看板を背負っているものの、大半は家族経営による零細商店です。今、廃業などで加盟店は減少傾向です。経営本部との団体交渉を実現させ、現状を少しでも改善させるのがユニオンの狙いです」
「出店攻勢をかけて毎年のように過去最高利益を出している大手もありますが、加盟店は利益がほとんど残らない。本社ばかり豊かになる構造を見直さなくては。便利さを追究する戦略ではなく、命を守る経営を目指してほしい。米国や欧州にはFCビジネスを規制する法律があります。日本でもFC規制法の成立に向け、議論を深めていくつもりです」
【さかいたかのり】1960年兵庫県伊丹市生まれ。半導体メーカー勤務などを経て、2003年に姫路市でコンビニを開業。17年8月から「コンビニ加盟店ユニオン」の執行委員長を務める。
◇記者のひとこと
前日の睡眠時間が約3時間にもかかわらず、笑顔で迎えてくれた酒井さん。「接客が好きなので、仕事を辞めたいと思ったことはない」の一言に頭が下がる思い。消費者として、24時間問題と向き合い続けたい。