<論戦ファクトチェック>年金、実質は目減り 物価・賃金の上昇に追いつかず (7/12)

 <論戦ファクトチェック>年金、実質は目減り 物価・賃金の上昇に追いつかず

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019071202000148.html    

東京新聞 2019年7月12日 朝刊

 

 安倍晋三首相は参院選の演説などで、公的年金制度について、二〇一九年度の給付額が増えたと繰り返し説明している。だが、現行制度は将来の年金の財源確保を重視しているため、経済情勢が良くても年金給付額はさほど伸びず、物価や現役世代の収入と比べた場合の給付水準はむしろ低下する。首相はテレビ番組で、給付を抑えなければ新たな財源が必要になるとも話しており、首相の説明は実感に乏しい。 (中根政人)

 「雇用が大きく改善して保険料収入がプラスになった。今年四月の年金給付額は増えた」。首相は参院選公示日の四日の演説で、安倍政権の経済政策で公的年金制度が改善されたと訴えた。厚生労働省が一月に発表した一九年度の新たな年金給付額は前年度比で0・1%増。首相の発言は、金額の説明としては正しい。

 だが、首相の発言は制度の説明としては十分ではない。現行制度には、物価や賃金の上昇よりも年金給付額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」という仕組みがあり、一九年度の伸びが抑えられているからだ。

 賃金の伸び率に合わせるなら、一九年度の年金給付額は0・6%増となるはずだった。だが、マクロ経済スライドの実施により、結果的に0・1%増にとどまった。年金給付額は増えたものの物価の上昇に追いつかず、生活で使えるお金としての価値は目減りした。

 首相は、マクロ経済スライドについて「(給付)実額を減らすのではなく、伸び率を調整していく」と説明し「実入り」の低下には言及しない。

 厚労省が一四年に公表した年金の財政検証結果では、現役世代の平均手取り収入と比べた年金給付額の割合を示す「所得代替率」は、標準的な条件でも現在の六割前後から、今後三十年で五割程度に下がると試算している。財政検証は五年に一度行われる。今年公表の検証結果はこれまで示されておらず、首相は参院選の論戦でも、今後の水準がどうなるかを明らかにしていない。

 首相は六月二十二日、読売テレビの番組で、マクロ経済スライドを実施しない場合に七兆円の財源が必要と発言している。

 厚労省によると、マクロ経済スライドを実施した場合の基礎年金(国民年金)の給付総額は、四三年時点で十七兆〜十八兆円程度となり、実施しない場合より約七兆円抑えられると試算。今月二日には政府答弁書としても閣議決定された。

 首相の一連の発言は、厚労省のデータや試算に基づいたものだが、想定よりも経済情勢が悪化したり少子化が進んだりした場合、年金の給付水準はさらに低下する恐れがある。

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