柳井会長兼社長が語る「グローバル企業の在り方」 (9/5)

柳井会長兼社長が語る「グローバル企業の在り方」
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NHK News 2019年9月5日 20時28分

衣料品チェーンの「ユニクロ」といえば、世界各地に店舗をもつ日本を代表するグローバルブランドの一つです。その「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが今月、ILO=国際労働機関とパートナーシップ協定を締結してアジア各国の労働者の環境整備に共同で取り組むことを明らかにしました。なぜ一企業がILOと組んでアジア諸国の労働環境の整備に取り組むのか、そして、米中貿易摩擦が激化する中で世界や日本の景気の先行きをどう見ているのか。柳井正会長兼社長に聞きました。(経済部記者 白石明大)

なぜILOと連携?なぜILOと連携?
ユニクロやジーユーなどを国内外のおよそ3400の店舗で展開するファーストリテイリング。店舗に並ぶ商品のほとんどは日本や中国、ベトナムなどアジアの11か国にあるおよそ240の主要工場に委託して生産されています。

今回の協定で、ファーストリテイリングは工場があるこうしたアジア各国の労働者の社会保障などの環境整備に向けたプロジェクトに協力することを決め、2年間で180万ドル、日本円でおよそ1億9000万円をILOに拠出することになりました。

ILOの民間資金によるプロジェクトとしては、社会保障に関する分野で過去最大規模だということです。柳井さんはどうして、この協定の締結に踏み切ったのでしょうか?

ファーストリテイリング 柳井正会長兼社長
「アジアは雇用を生み出して発展しないといけない。そのときの最初の産業は繊維や縫製、あるいは小売のような労働集約型の産業で、そこでの労働環境や労働条件を本当によくしたい。われわれは製造現場の人が元気で勇気をもって、希望をもって仕事ができる、そういう環境を作りたいなと思います」
まずはインドネシア。その理由は?まずはインドネシア。その理由は?
ジャカルタ
まず、はじめに取り組む国は、インドネシアです。プロジェクトでは、労働者が失業期間中に最低収入を保障する雇用保険の創設や失業者に別の産業への再就職を促す支援態勢の充実について、インドネシア政府に働きかけます。

こうした取り組みの背景には、ある事情がありました。首都ジャカルタ周辺にあったファーストリテイリングの複数の委託工場が、中心部から離れた所に移転したのです。

このところの経済発展でIT産業の工場が進出し、中心部の人件費が上昇。より人件費が安い地域に工場が移転すると、労働者は、失業を余儀なくされてしまいますが、インドネシアには雇用保険など失業者を守る制度が充実していません。

プロジェクトではこうした現状を改善するための支援を企業として実行していきたいといいます。
「(柳井会長兼社長)インドネシアは人口が2億6000万人ぐらいいますよね。その人たちの生活が向上するってことは世界にとってすごく大事ですよね。東南アジアの大国として今からインドネシアが成長していくうえでそのときにやっぱり労働環境が本当によくないといけない。一つずつ課題を解決していくうえで、具体的な制度や政策ができあがっていくと思うので、労働者の現実の生活がよくなるようなそういう例をまずは作っていきたい」
グローバル企業としての“視点”
さらに、柳井さんの話を聞いていると、グローバルに展開する企業経営者ならではの視点が見えてきました。
「(柳井会長兼社長)グローバル化、デジタル化というのはもう時代のメガトレンドですよ。誰も止められない。ヒト、モノ、カネ、情報が自由に行き来する、そういう世界。この恩恵をいまは先進国の人だけ受けているが、アジアは人口が40億人で、この人々が今から中産階級になっていくんですよ。だったらそれをせき止めることはよくないと僕は考えている」
一方、米中貿易摩擦が激化する中、柳井さんは世界の景気の先行きについては暗い見通しを持っていることを明らかにしました。

「(柳井会長兼社長)世界の景気の先行きは非常に暗いですね、よくないです。今のそれぞれの国の政策とか世界情勢からいったら、よくならないと思いますね。むしろドロップダウンする可能性がある。みんなが表面的な金もうけばっかり考えているのでこれではだめですよね。ある意味、バブルが起きている可能性すらある。日本も、いま将来の先食いをしているだけですから、ある日突然ドロップアウトする可能性があると思います。自分たちの将来のことをもっと考えていろいろなことをしないといけないんじゃないですか。目先のことばっかりしか考えていないのはよくないよね」

“サステイナビリティー”を企業の大前提に

世界経済のリスクが増す中で柳井さんが企業にとって重要だと強調したのは「サステイナビリティー(=持続可能性)」です。企業は「サステイナビリティー」を大前提に進めないと事業そのものができなくなるといいます。
「(柳井会長兼社長)今回のILOとの取り組みは企業の戦略とかそんなチョロいことじゃないんですよ。世の中がそっちの方向に動いている。ひょっとしたら、このままだと世の中がだめになる、社会が継続できなくなるんじゃないかっていう不安が世界の国々で起きている。そういう中で事業をしようと思ったらサステイナビリティーが事業活動の大前提じゃないといけない。ヨーロッパはいまどんどんそうなっているし、アメリカでもそう。アジアの国でもそうなんです。社会にとってよい企業じゃないと生き残れない」
取材を終えて

ファーストリテイリング 柳井正会長兼社長
「世界で働く若い人が、特に女性が、希望をもって仕事ができるような一助になりたい」
インタビューの最後に、柳井さんは力を込めてこう言いました。

生産の大部分をアジアの発展途上国に置くファーストリテイリングは、今回のILOとの協定で、一企業の事情を超えて、アジア各国の労働環境全体の改善を打ち出しました。

国境を越えるグローバル企業だからこそ、拠点を置く国々の発展にいかに貢献していくかが、ビジネスの勝敗を左右するだけでなく、企業の存在意義にもなっていると感じました。
経済部記者
白石明大

平成27年入局
松江放送局をへてこの夏から経済部
流通業界などを担当

 

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