「バイト辞めたい」20歳大学生が“店主の逆上”に困惑
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2019/11/4(月) 9:30配信毎日新聞
「バイト辞めたい」20歳大学生が“店主の逆上”に困惑
=Getty Images
人手不足の状況から、退職したい社員やアルバイトを会社が「辞めさせない」ケースが増えています。20歳の大学生は店主に逆上され、どう対応すべきか困惑しています。特定社会保険労務士の井寄奈美さんが事例をもとに解説します。【毎日新聞経済プレミア】
◇「バイト辞めたい」に店主が逆上
A郎さん(20)は大学2年生で、カフェでアルバイトをしています。将来に向けてある資格を取るためにバイトの時間を減らしたいと考え、店主に申し出たところ「今すぐには難しい」と言われました。「それならば辞めたい」と伝えると「うちの店が営業できなくなったら責任をとってくれるのか」と逆上され、困っています。
◇バイト先の暗黙のルール
A郎さんは大学の近くで1人暮らしをしています。大学入学後、バイトを探していたところ、このカフェでバイトをしていたサークルの先輩に誘われて働き始めました。その先輩は、A郎さんがバイトを始めてすぐに就活のために辞めました。この店では、自分が辞める場合、代わりの人を見つけるのが暗黙のルールになっているようでした。
店は学生バイトが中心で和気あいあいとし、好きなときに働くというスタイルでした。ただ大学の定期試験の時期になると、店は人手不足になりました。A郎さんは店から一番近くに住んでおり、人手が足りないときは一番に呼び出され、できるだけ対応していました。
しかし、A郎さんが仕事に慣れるとさらに呼び出しが増え、定期試験や帰省の時期などお構いなしに、店主から「店にいて当然」といった扱いを受けるようになりました。頼りにされるのはうれしかったものの、バイト中心の生活をしたいわけではありません。2年生になり、新入生のバイトが入ってきたら働く時間を減らすつもりでした。
◇「辞めたい」と店主に伝えるが……
A郎さんは2年生になりましたが、新入生のバイトは思ったように集まりませんでした。店の“暗黙のルール”を果たさずに辞める人が増えたことが理由でした。彼らは少しずつ働く時間を減らし、何かの理由で店主に「しばらく休みたい」と申し出ます。そして、そのまま自然に辞めていくパターンが続きました。
バイトの人数が減ると店主の機嫌が徐々に悪くなり、バイトは店主の機嫌をうかがいながらビクビクして働くことになりました。さらに、店主から各バイトに「週○日、1日△時間」などと働く時間を指定されるようになり、働けない場合も代わりの人を自分で探すようはっきりと指示されるようになりました。
A郎さんは他のバイトから「代わり」を頼まれることが多く、毎日のように働くことになり、疲れ切ってしまいました。どうすれば辞められるか悩んでいます。
◇退職の時期についてのルール
昨今の人手不足の状況から、会社が退職したい社員やアルバイトを辞めさせないというケースが増えています。厚生労働省によると、全国の労働基準監督署に設置された総合労働相談コーナーへの相談内容は、2016年から3年連続で「解雇」より「自己都合退職」の件数が多くなっています。
A郎さんの事例のように、職場内に「辞めるときは別の人を連れてくる」といった独自ルールがあるケースがあります。他にも「次の人が決まり引き継ぎを終えてからでないと辞められない」「2カ月前までに退職を申し出なければならない」といったルールを決めている場合もあるようですが、退職希望者は法律が定めたルールに沿って対応すれば十分です。
労働者からの退職の申し出に関する規定は民法にあり、雇用期間に定めのない場合は「雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」(627条)とされています。ただし、現行法は「期間によって報酬を定め」る正社員などの月給者は給与の算定期間の前半で退職を申し出たらその月の給与の締め日で、後半の場合は翌月の給与締め日で雇用契約が終了することになります(同条2項)。
一方で、20年4月施行の改正民法で、同条2項の労働者への適用がなくなります。給与の締め日は関係なく、労働者は申し出から2週間が経過すれば退職できるというルールに変更されます。
◇はっきりと退職の意思を伝える
A郎さんは時間給のアルバイトです。雇用期間に定めのない契約であれば、改正前の現行法でも退職の意思を伝えてから2週間が経過すれば解約の効力が生じます。
しかし、会社から引き止められることもあるでしょう。その場合も、辞める日を決めて「それ以降は働きません」とはっきり伝えるようにします。それでも会社が承諾しない場合、学生であれば大学が設置する相談窓口を訪ねたり、労基署に相談したりすることもできます。
雇用契約の当事者は自分自身と会社です。交渉などは自分でする必要があります。法律上のルールがあることを心にとめ、はっきりと退職の意思を伝えることが大切です。また会社の承認を得ずに辞めた場合でも、働いた期間の賃金を受ける権利があります。
会社側からすると、後任の採用や業務の引き継ぎを考えると「2週間前に辞めると言われても困る」という事情もあるでしょう。ただ、退職を申し出る人はそれまでに何らかのメッセージを出しているはずです。A郎さんの場合、業務が過重になっていて、まずは働く時間を減らしてほしいという要望がありました。会社側の事情だけを押しつけていては、従業員に長く働いてもらえません。従業員それぞれの事情に配慮して折り合いをつけていくことが大切です。