パート厚生年金 「従業員50人超」軸 厚労省、適用拡大へ
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2019/11/12 19:30日本経済新聞 電子版
パートなど短時間労働者への厚生年金の適用拡大に向け、政府は対象企業を現在の「従業員501人以上」から「50人超」に広げる案を軸に調整に入る。新たに65万人が加入する見込みで、公的年金の給付水準を底上げできる。一方、中小企業は保険料負担が増し、経営が悪化する懸念がある。パートで働く人が多い小売業などは慎重な姿勢を崩しておらず、決着には流動的な部分もある。
厚生労働省は与党や関係団体との調整を本格化させる。年末までに中小の支援策も含めた詳細を固め、来年の通常国会での法案提出をめざす。
現在は従業員501人以上の企業で週20時間以上働き、賃金が月8.8万円以上などの条件を満たすパートなどの短時間労働者は強制的に厚生年金に加入する。保険料率は報酬の18.3%で、これを労使で折半して負担している。
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厚労省は企業規模の要件を引き下げて対象企業を広げる。「50人超」「20人超」「撤廃」の3案について影響の推計をまとめた。厚労省や厚労系の与党議員は50人超を「最低ライン」と主張している。厚労省が設置した有識者検討会は「企業規模要件は本来は撤廃すべきもの」とする報告書をまとめている。
新たに厚生年金に加入する短時間労働者は「50人超」なら65万人、「20人超」は85万人、「撤廃」は125万人に上る。多様な働き手を社会保険に加入してもらって社会保障制度を安定させるとともに、こうした人たちが将来受け取る年金額が増えるメリットがある。
厚労省は今年8月に公表した公的年金の財政検証で、賃金や成長率の伸びが最も良いシナリオでも、現役世代の収入に対する年金額の割合(所得代替率)は現在の61.7%から51.9%に下がるとの試算を示した。所得代替率は夫が会社員で妻が専業主婦という世帯をモデルに、現役男性の手取り収入に対する年金額の比率で示す。
国民年金の加入者が厚生年金に切り替わることで給付水準は向上する。厚労省の推計では、企業規模要件の撤廃なら0.5%程度、20人超なら0.4%程度、50人超なら0.3%程度それぞれ所得代替率は改善する。
ただ、中小企業の従業員まで適用拡大すれば、企業側は年金だけでなく、医療の保険料も新たに負担することになる。年金と医療は制度の足並みがそろっているためだ。
会社員などに扶養されている配偶者は、新たに勤め先の健康保険に入るため保険料負担が発生する。市町村が運営する国民健康保険に入っている人は企業が運営する健康保険組合に移行する。
これによって健康保険組合や国民健康保険の財政に影響が出る。厚労省の推計では、企業規模の要件を50人超にすれば、中小企業の従業員が入る全国健康保険協会(協会けんぽ)は年30億円の財政悪化になる。大企業の従業員が入る健康保険組合も同様に30億円の悪化だ。短時間労働者はフルタイムで働く人より賃金が低く、納付する保険料も少ないためだ。
一方、国民健康保険は30億円の改善となる見通し。加入者が協会けんぽなどに移行することで国保の規模が小さくなるためと考えられる。