深刻なカスタマーハラスメント、現場ではなく本社が対策すべき (12/9)

深刻なカスタマーハラスメント、現場ではなく本社が対策すべき
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2019.12.09 wezzy

「Getty Images」より

 顧客や取引先からの悪質なクレーム“カスタマーハラスメント(カスハラ)”。厚生労働省の調査で、カスハラが原因で労災認定された人は過去10年間で78人、さらに自殺者は24人もいることがわかった。

 株式会社エス・ピー・ネットワークが実施した「カスタマーハラスメント実態調査(2019年)」では、企業でクレーム対応を行った経験のある会社員1030人を対象に調査。「直近3年間でカスタマーハラスメントが増えていると感じるか?」という設問に半数以上が「増えている」(55.8%)と回答した。

 顧客による不当な要求や悪質なクレームから従業員を守るにはどうすれば良いのか。クレーム対応コンサルタントで株式会社エンゴシステム代表の援川聡氏に話を聞いた。

 


援川聡
(株)エンゴシステム代表取締役。NPO法人地域安全協会副理事長。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。その適切で確実な“解決術”に各方面から高い評価を受けている。2002年「困難なクレームを解決し、企業・組織の危機管理を援護する」をモットーに、?エンゴシステムを設立。


カスハラ問題を現場に押し付ける本社
サービスを提供する側が誠実な姿勢で臨み、顧客側も企業側も不利益のない取引が行われることが理想だが、過剰な要求や理不尽なクレームが発生することはある。従業員や企業側の過失があれば対応して然るべきだが、そうではないケースが問題だ。

援川氏「現在、多くの業界で人手不足が深刻化しています。特にカスハラが起きやすい小売業やサービス業などでは顕著です。ただでさえ従業員一人ひとりの業務量が多く、限られた時間の中で理不尽なクレームまで対応しなければいけないとなると、心身ともに追い込まれてしまいます」

 その一つの結果が、冒頭に記した厚労省のデータといえるだろう。

援川氏「離職率が高くなり人手不足が加速化、なんとか頑張っている従業員も疲弊し、余計なクレームまで発生する、という悪循環に陥っている企業をよく見かけるのです。近年、“人手不足倒産”が問題視されていますが、その背景にはカスハラに対する適切な対応が取られていないことも考えられます」

 しかし顧客の要求に「NO」と言えない、現場の苦悩もある。

援川氏「2000年前後に欧米から“顧客満足度”という言葉が浸透してきて、『クレームは宝の山』『会社を成長される貴重なご意見』と“お客様第一主義”を掲げる企業が増えました。しかし日本でこれを実践するのは無理があるのです」

 いわく、欧米は基本的に各従業員の業務範囲が明確なジョブ型雇用であるため、顧客満足度を意識しつつも過剰な要求や担当外の要求には「それは私の仕事ではありません」と「NO」を突きつけることが可能だという。

援川氏「翻って日本ではどうでしょうか。責任の所在や業務内容が不明確で、消費者の要求に『NO』と言いにくい環境です。このことが、本来は平等であるべき消費者と従業員のパワーバランスを歪ませ、カスハラを増加させる温床になりました」

 インターネットの普及がカスハラにつながっている側面もあると援川氏は見ている。

援川氏「対面や電話でクレームを入れることには抵抗があっても、メールなら感情を書き連ねて送信することができ、クレームのハードルが下がりました。最近では、スマートフォンがカメラとレコーダーを搭載しているため、『SNSで晒してやる』『会話を録音したから本社に報告する』と言って脅すなどのカスハラ事例もあります」

 顧客側が不利益を被った場合、泣き寝入りしないために証拠を撮影・録音することは重要だが、それを悪用してカスハラに発展させるケースもあるということだ。

 では厚生労働省のカスハラ対策はというと、先ごろ発表した「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」において、企業に対し「従業員が相談できる環境を設置し、適切な対応をすること」と抽象的な指示があるのみだ。

援川氏「現状ではカスハラの定義は曖昧であるため、『なにを基準にすべきか?』ということで政府は様子見をしている。実際、現時点でできる対策は各企業に『カスハラ発生時のガイドラインの作成の義務化』ということくらいしかありません」

 各企業が独自に対策を進める必要があるが、まずは現場にカスタマー対応を任せきりにしないことが最重要だ。

援川氏「カスハラ対策のコンサルティングをしていると、本社が全く現場に寄り添っておらず、『カスハラは現場でどうにかして』と言わんばかりの会社が少なくないことがわかります。

さらに現場でも、店長がアルバイトスタッフに『あなたがレジのリーダーだから頑張って!』と責任を押し付け、あまつさえ従業員がカスハラ被害に遭っていてもバックヤードに逃げてフォローに入らないケースもありました。

クレーム対応の専用窓口を設ける、ロールプレイングなどでカスハラ時の対応を学ぶ研修を実施するなど、本社が積極的に動いて従業員を守らなければいけません」

 また、従業員自身がハードクレームから心を守り、感情的な応酬に発展させないための対策として、援川氏は“臍下丹田呼吸法”の習得を勧めているという。

援川氏「臍下丹田呼吸法は臍の下と恥骨の間にある“丹田”を意識し、力を込めながらゆっくり息を吐き出す呼吸法になります。やり方は、息を吐き切り、息をゆっくり吸い込み、肺が空気でいっぱいになったら丹田に手を当て、ゆっくり吐き出すというもの。

自身がカスハラ被害を受けている時に行うことで、感情的にならず適切な対応を取ることができます。私は企業にコンサルティングする際、従業員の方に臍下丹田呼吸法を教えています」

 一方で、私たちは企業に属する従業員側の立場であることもあれば、いち消費者でもある。つまりカスハラ加害者になる可能性もあるわけだが、どのように苦情を申し立てれば双方の不利益にならずに済むか。

援川氏「カスハラの境界線は本当に曖昧なので明確なラインはありませんが、商品に不備があったり、接客態度で嫌な気持ちになったならはっきりお伝えすれば良いと思います。ただ、伝え方は大切です。

たとえば『なんてことしてくれたんだ!』と怒鳴るのではなく、落ち着いて『こういうことをされて困ったので責任者を呼んでもらいたい』と言う、専用窓口にそのことを伝えるなど、冷静に対処すれば良いだけの話です」

 そもそも「これを言ったらクレーマーだと思われるかも」「忙しそうなのに悪い」等と尻込みし、自分の立場や相手の状況を思いやれるなら、苦情を申し立てたとしても悪質クレーマー扱いされはしないだろう。

▼取材協力:
援川聡 /(株)エンゴシステム代表取締役。NPO法人地域安全協会副理事長。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。その適切で確実な“解決術”に各方面から高い評価を受けている。2002年「困難なクレームを解決し、企業・組織の危機管理を援護する」をモットーに、?エンゴシステムを設立。現在も、リアルタイムで企業・組織をサポートしながら、ピンチに頼れる“相棒”として活躍中。また、講演や執筆活動などを通して様々な機関で解決方法・リスクマネージメントのノウハウを伝授している。事例を盛り込みながらの講演は迫力に満ち、「説得力が違う」と聴講者からも絶大な信頼を得ている。

【著書】『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』(ダイヤモンド社 2018年9月)『クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社2014年3月)『理不尽な人に克つ方法(小学館 2014年2月)『クレーム処理のプロが教える断る技術』(幻冬舎 2004年12月)『困ったクレーマーを5分で黙らせる技術』(幻冬舎 2007年10月)『知識ゼロからのクレーム処理入門』(幻冬舎 2008年6月 弘兼憲史 共著)『クレーマーの急所はここだ!』(大和出版 2008年7月)『医療機関のクレーム完全対応マニュアル』(すばる舎 2010年3月)

■株式会社 エンゴシステム http://www.engosystem.co.jp/
 

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