“カスハラ”の恐怖 駅員たちの告白
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191219/k10012219321000.html
NHK News 2019年12月19日 16時39分
「携帯が見つからない」
「今からお前(駅員)が車庫に行って全部見てこい」
深夜1時すぎ、とある鉄道会社の終着駅に響き渡る乗客の怒号。対応していた駅員が解放されたのは午前3時を過ぎていました。こうした客からの暴言や執ようなクレーム、カスタマーハラスメント(カスハラ)。鉄道業界でも、もはや日常的とも言えるほど、頻発しているといいます。今回は、駅員たちの告白です。
(社会部記者 浅川雄喜)
駅員の告白1 駅員がどんどん辞めていく
鉄道会社勤務 30代の駅員 佐藤さん(仮名)
「カスハラは“ある日”ではなく“日常的に”繰り返されています」
こう話すのは首都圏の鉄道会社に勤務する30代の駅員、佐藤さん(仮名)です。入社以来、数え切れないほど客から暴言やクレームを受けてきました。
被害は佐藤さんだけでなく、駅では、毎日のように同僚たちの誰かしらがカスハラ被害にあっているといいます。その内容は、とても理不尽で理解できないものばかり。佐藤さんは、心を閉ざし何も考えないようにすることで、なんとかその場をやりすごしているといいます。
佐藤さん(仮名)
「理不尽だと思うものばかりです。それが毎日のように誰かしらがですからね…」
日常的に繰り返されるカスハラで、会社では深刻な影響がでているといいます。佐藤さんの会社では入社すると、まずは駅員として働きます。そこで、社会にでたばかりの新人たちのほとんどが、こうした暴言や理不尽なクレームを受け、苦悩しているといいます。
ただひたすら“謝罪”心身共に疲弊
こうした事態になっても、会社では暴力行為への対応が中心で、カスハラに関する明確なマニュアルはありません。対応は現場任せになっていて、ただひたすら謝り続けるしかないといいます。その結果、毎年のように新人たちが次々と辞めていくという事態になっているのです。
さらに心配なのは、カスハラ被害で体調を崩す人まで出ていることです。カスハラが多いのは、終電近くの深夜帯。終電後も、酒に酔った乗客からの理解し難い執ようなクレームを受け続けることも少なくありません。それらは数時間におよぶこともあり、同僚の中には、心や体調を崩す人まで出ているといいます。
佐藤さん(仮名)
「酔っている人も多いので、とにかくクレームが長い。そして頻度が多いのが鉄道のカスハラの特徴だと思います。休みの日に子どもと一緒の時は何も言わず笑顔を振りまく父親が平日は何かにつけて毎回、私たちに理不尽なクレームを言ってくるのを経験した時は、どうかしているとさえ思いました」
駅員の告白2 “さらされる”かもの恐怖
「同僚はトラウマになったと言っていて…」
こう話すのは別の鉄道会社に勤務する40代の田中さん(仮名)です。あるとき田中さんは、電車にかばんを忘れたという乗客に対し、「忘れ物センターの対応時間は終わっており、翌日対応する」という趣旨の説明をしました。
するとその乗客は突然、激高。田中さんに「おいちび、お前ばか、早くしろ」と暴言を浴びせたうえで、突然、携帯電話を向けて、撮影したといいます。これまで暴言やクレームを受けることはあっても撮影されたのは初めてで、恐怖を感じたといいます。
日常的になり、悪質化しつつある、鉄道業界でのカスハラ問題。田中さんとともに話を聞かせてもらった60代のベテラン駅員の鈴木さん(仮名)は、カスハラに対して、業界全体できぜんと対応していくべきだと訴えています。
カスハラへの対応 各社は…
いったい、カスハラ被害はどのくらい起きているのか、鉄道各社に聞いてみるとー。
JR・大手私鉄問わずすべての鉄道会社が「問題だと認識しているものの、詳細は言えない」という回答でした。国や鉄道会社は、統計をまとめておらずその実態はわかりませんでした。
対策についても暴力行為については、マニュアルが整備されていましたが、カスハラについては明確な対応やマニュアルはないというところがほとんどでした。多くの会社が、乗客からのカスハラ被害は認識しているものの、対応に苦慮しているという印象でした。
一方で、鉄道会社の担当者の中には、対応が進まない背景に、鉄道会社の“ある体質”や“慣習”を指摘する人もいました。
カスハラが社員をむしばむ
今回の取材では、カスハラの被害にあった鉄道各社の社員たちが、さまざまなエピソードを打ち明けてくれました。その中には、駅の責任者を呼びつけ「係員の対応が悪い」などとどなり続け、ほかの利用者がいるなかで、責任者に無理やり土下座をさせたようなケースもあったと打ち明けてくれた人もいました。
鉄道業界ではカスハラは統計データがないだけで、実は、頻繁に起きていて、悪質なケースが少なくないということです。そして、若手の社員を中心に心も体もむしばまれているとも。
どうすれば「カスハラ」から働く人を守ることができるのか。
NHKでは引き続き「カスハラ」の実態についてお伝えしていきます。「カスハラ」被害やその実態、それに対策などありましたら、以下のリンクからぜひ情報を提供してください。
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/