変わらなきゃ!働き方改革
年度内の「駆け込み有給休暇」が増加する? “義務化ノルマ”で会社がこんなことをしたら要注意!
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FNN.jp編集部 2020年1月6日 月曜 午後0:00
2019年4月から「1年間で5日間の有給休暇」の義務化がスタート
専門家「“駆け込み有休”をとらせる会社はあると思います」
要注意!祝日を労働日にすり変えて、その日に有休をとらせようとする
みなさん、しっかり休んでいるだろうか?…と言っても正月休みのことではない。
2019年4月から「有給休暇」の義務化がスタートしたことは、ご存じだろう。
パンフレットの一部 出典:厚生労働省
おととし可決した「働き方改革関連法案」により労働基準法の一部が改正され、正社員はもちろん契約社員やパート・アルバイトも、次の条件を満たした人は全て、1年間に5日の有休を取ることが義務化されたのだ。
・入社後6か月が経過している「正社員」またはフルタイムの「契約社員」
・入社後6か月が経過している週30時間以上勤務の「パート・アルバイト」
・入社後3年半以上経過している週4日出勤の「パート・アルバイト」
・入社後5年半以上経過している週3日出勤の「パート・アルバイト」
(※出勤率が8割以上の人)
もし有休を取らなかったら労働基準法違反になり、労働者には何のおとがめもないが、会社側は違反者1人につき30万円以下の罰金が科せられる。
実は、この制度がはじまる前の調査では、義務化を知っている労働者は全体の半分以下。
会社側も、制度の内容や施行時期すら知らないケースがあったことは、編集部でもお伝えしている。
(参考記事:4月から“有給休暇の義務化”をご存知? 会社がこんなことをしたら要注意!)
周知不足の感が否めない中で始まった有休義務化の1年目の区切りとなるのは今年3月末日。
だから、この3ヶ月の間に有休を“駆け込み取得”させる会社が増加するかもしれない。
休めるのはいいことだが、有休取得とみせかけてごまかそうとする“ブラック企業”はいないのだろうか。労働者はどんなことに気を付ければいいのか?
労働事件に詳しい旬報法律事務所の佐々木亮弁護士に聞いてみた。
■有休が義務化したことを知らない会社はまだ多い
――これから慌てて「駆け込み有休」をとらせる会社が出てくる?
あると思います。
おそらく報道量もこれから増えるので、「うちの会社、どうだっけ?」という労働者や経営者が出てくるのではないかと思います。
最終的に取らせられれば問題はないのですが、できないとなると罰則もある厳しい制度ですので深刻です。
――有休義務化をちゃんと知らない会社はまだある?
多いと思います。
パート社員の方と話をする際にこの有休の義務化の話をするのですが、ちゃんと対応しているという話はあまりありません。
分かっていて対応していないのか、それともパート社員だからと経営者が勘違いしているのか、どちらか分かりませんが、もし、4月に有休を付与したとするとあと3か月しかないですから、心配になりますね。
――有休義務化についてどんな相談があった?
2019年の4月前後は、労働組合から相談が比較的多くありました。
いずれも会社がこういう制度を入れようとしているのだけど、問題ないか?というようなものでした。
限られた数ですが、傾向としては、労組のある会社では、まず労働者が有給休暇を早めに取るように勧めて、なかなか取らない場合に会社が指定するという枠組みのようです。
■会社の怪しい動き…こんなことがあったら要注意!
――有休をごまかす“ブラック手口”ってあるの?
制度導入時に行われた「すり替え」手口は駆け込みの場合も利用される可能性はあります。
たとえば祝日を労働日にすり変えてしまい、その日に有休をとらせようとすることもあるかもしれません。
元日を除くと3月末日まで祝日が4日ありますので要注意です。
――労働者が気を付けた方がいいことは?
突然、休日が減るような就業規則の変更を行う場合はこの有給休暇の取得義務化を意識している可能性が高いです。
なぜ、休みを減らすのか、経営者がちゃんと説明できないといけません。
通常、賃金額や所定労働時間が変わらないのに、休日を減らして労働日を増やすことは不利益変更となるので、そうした動きが出てきた場合は注意してください。
――有休について何も言わない会社もある?
まともな会社であれば、制度の変更は事前に知らされるものです。
むしろ、労働組合が機能している会社であれば、「こう変えたいので意見がほしい」として、協議が行われます。
また、協議はないとしても、制度を変えるのであれば、事前にいうべきです。
いきなり「今日からこうなりました。」というのは労働者を軽く見ていると言っていいでしょう。
そして、知らせることもなく、気づいたら制度が変わっていたというのは論外です。
■5日の有休が取れない場合は労基署へ
――有休がとれそうにない場合はどうすればいい?
この5日の有休取得義務の制度は、罰則のある厳しい制度です。
もしこれができていない職場がある場合は、労働基準監督署に申告するといいでしょう。
――この有休を取らずに年度末を越えたら、繰り越しで倍休める?
有休付与日を基準日として、そこから1年の間に5日の有休を取らせなければ法違反が確定し、犯罪となります。
繰り越して、来年度に10日を取らせればいい、とはなりません。
――有休をとらせなかった会社はどうなる?
罰則のある制度ですので、これが守られていない場合は、会社は労基署から是正命令を受けるはずです。
そして、これを是正しない場合は、刑事事件として立件され、送検されることになります。
送検され、検察官がこれを起訴すると、有休を取得させなかった1人につき1つの犯罪が成立し、罰金として最大30万円が科されることになります。
ですので、もし10人の社員に5日の有休の取得させていなかった場合は、罰金は加算されるので、最大で300万円となります。
出典:厚生労働省
■有休義務化で働き方は変わる?
――有休義務化で日本の労働環境は良くなるの?
まだ1年も経ってないので結論づけることはできませんが、ちゃんと制度が実施されれば、日本の有休取得率は上がるはずです。
ですので、もう少し様子をみてから良くなったかどうか、言ってみたいですね。
――有休について労働者や企業の意識は変わった?
少なくとも経営者にとっては大きく意識が変わるでしょう。
逆に、変わってないと困ります。
これまでは労働者が「取りたい」と言わなければ与えなくても全く問題なかったのに、突然、これを5日与えないと刑事罰を受けるものに変わったのです。
逆に労働者で有休を使わない・使えない人にとっても、5日は取れるということで、休むことへの意識が変わるかもしれませんね。
これまでも5日以上、普通に取得できていた職場の労働者にとってはあまり変わらないと思います。
――逆に、この制度への不満は?
この制度は、義務と権利とが混在している独特な制度です。
日本では、原則として有給休暇が労働者の権利として設定されているので労働者が何もいわない限り、取得されないという限界がありました。
他方、ヨーロッパの一部の国では、有給休暇は労働者の権利ではなく、使用者の義務として設定されており、そうした国では有休消化率という概念さえありません(100%が当然のため)。
我が国の制度の良し悪しはまだわかりませんが、なんか中途半端だな、という印象はあります。
また、有給休暇制度の改革について思うのは、自分や家族が病気のときに使いたいから有休をとっておくという現象をなくす改革が必要という点です。
これが原因で有休の取り置き現象が発生し、結果、消化しないで消えていくことが多いと言われています。
ですので、何日間かを有給の傷病休暇として定めるなど、法改正で手当できることもありそうです。
ほかにも、有休がとりにくい職場をどうなくすかも大事です。
これについては今回の義務化によってどうなるか、いい変化が起こるといいのですが。
――そもそもの「働き方改革」って、ちゃんと進んでると思う?
なかなか進んでいないと思います。
ただ、意識は少しずつ変わってきているとは感じます。
まず、長時間労働自体はよくない、という意識は浸透したものと思います。
しかし、これを真に解消しようとする動きと、ごまかして解消しようという動きがあり、後者が目立っているのが現状です。
法制度だけを変えたとしても、文化まですぐに変わるわけではありませんので、引き続き「働き方改革」を主張していくことが大事だと思います。
――ちなみに弁護士も有休はあるの?
労働者である弁護士もいれば、個人事業主である弁護士もいます。
労働者である弁護士であれば当然有給休暇を5日は取らせないといけませんし、通常の有休を権利として持っています。
しかし、私も含め個人事業主である弁護士は有給休暇はありません。
自分で勝手に休むだけなので、私も自分で勝手に休むだけですね。
さて、あなたの会社はどうだろうか?
導入1年目なので、3月までの間に「有休とって」とあわてて言ってくることもあるかもしれない。
祝日の扱いや突然の就業規則の変更に気をつけながら、しっかり5日間の有休をとって英気を養ってほしい。