「違反」残業なお300万人 人手不足、管理職にしわ寄せ
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2020/1/20 1:00日本経済新聞 電子版
〔写真〕部下の仕事量が減ったしわ寄せで管理職の残業が高止まりしている
大企業の残業に罰則付き上限が導入された2019年4月以降も月80時間超の残業をしている人が推計で約300万人に上ることが総務省の調査で分かった。労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったしわ寄せで管理職の残業が高止まりしている。今後は画一的に残業を減らすのではなく、生産性の向上で収益を高め、働き手にも還元していく改革が重要になりそうだ。
働き方改革関連法によって大企業は昨年4月から従業員の時間外労働を年720時間以内にすることが義務づけられた。月100時間を超えてはならず、2〜6カ月平均で月80時間以内にしなければならない。建設業など一部業種を除き、違反があれば30万円以下の罰金か6カ月以下の懲役を科せられる。同様の規制は今年4月から中小企業にも適用される。
だが統計上は多くの企業がこのルールに「違反」した状態にある。
労働基準法が定めた法定労働時間は1日8時間、週40時間。1カ月単位で計算すると、80時間の残業を含めて、およそ240時間程度が働くことができる上限になる。ところが総務省の労働力調査によると、19年4〜11月に月241時間以上働いた雇用者(役員を除く)は月平均で約295万人もいた。
18年度平均の319万人よりは減ったものの、それでも雇用者全体の5%を占める。このうち4割は従業員100人以上の大企業で働く人だ。「過労死ライン」と呼ばれる月100時間超の残業をした人も月平均で170万人に達していた。
働き方改革の動きが広がる中で統計上の残業が減らない理由の一つは、これまで隠れていた残業が表に出てきたためだ。
ある大手居酒屋チェーン幹部は「労働時間を正確に把握しようとしたら、正社員の残業時間が跳ね上がった」とため息をつく。店舗で働く社員はアルバイトの欠勤を埋めるため急にシフトに入ることも多い。こんな正社員の「サービス残業」があぶり出されている。
もう一つは部下の残業時間を抑えたしわ寄せも受ける形で、管理職の労働時間が高止まりしているためだ。リクルートスタッフィングが昨年9月にまとめた調査では、従業員300人以上の企業の管理職412人の12.8%が残業が「増えた」と答えた。働き方改革に詳しいパーソル総合研究所の小林祐児主任研究員は「労働時間に上限を設けると、部下に残業を頼めない中間管理職に業務が集中する」と話す。
残業減で手取り収入が減ることを避けようと、労働時間管理の緩い企業に転職する動きもありそうだ。ヤマト運輸は17年からドライバーの労働時間の削減に取り組み、18年度の1人あたり残業時間は16年度比で3割減った。一方、西日本で働く50代のドライバーは「手取りが減ったことが原因で他社に移った人がいる」と打ち明ける。
〔画像〕2019年4月以降の中間管理職の残業の変化
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残業規制が本格適用される今後は、生産性の向上を伴う改革を実現することが課題になる。
コンサルティングの大手、アクセンチュアは15年から午後6時以降の会議を原則禁止し、同時に人工知能(AI)や定型作業を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などを活用し業務を効率化した。15年ごろは深夜までの激務が当たり前だったが、今は1日の残業が平均1時間に減った。
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この結果、約10%だった離職率は半分に低下。優秀な人材の確保などで顧客への提案力が高まり売上高は大幅に伸びたという。江川昌史社長は「きちんと働き方改革をすれば生産性も売り上げも上がる」と話す。
生産性の向上を伴わずに残業時間だけを減らすと、働き手の手取り収入が減り、それが消費を下押しする構図に日本経済がはまりかねない。労働時間を厳しく管理するだけでなく、収益を高める生産性向上と一体的に進め、その果実を働き手にも還元する好循環をつくることが課題になる。
(奥田宏二、井上孝之)