春闘開幕、賃上げ維持焦点 米中・中東情勢、景況感に影
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朝日新聞 2020年1月29日 5時00分
2020年春闘、労使のおもな主張
連合と経団連の労使トップが28日、都内で会談し、今年の春闘が幕を開けた。労働組合側は前年並みの賃上げを求めたのに対し、経営側は先行きが不透明な経済情勢などを背景に、一律の賃上げに慎重な姿勢だ。
東京・大手町であった会談で連合の神津里季生(りきお)会長は「賃上げのうねりが社会全体のものになっているとは思えないと語り、賃上げを続ける意義を訴えた。
連合は今回、5年連続でベースアップ(ベア)2%程度、定期昇給込みで4%程度の賃上げを統一要求に盛り込んだ。厚生労働省の集計による2019年春闘の実績は定期昇給を含む平均の賃上げ率が2.18%だった。今回も2%台を達成すれば7年連続になる。
それでも長い目で見れば日本の賃金は伸び悩む。経済協力機構(OECD)の調査では、95年と比べた名目賃金の伸びは米国の2倍、ユーロ圏の1.6倍に対し、非正規社員の割合が増え続ける日本の賃金は0.9倍と1割下がった。半面、日本の企業の内部留保は463兆円(18年度)に達しており、連合は「分配構造の転換:(神津氏)をはかって賃金を伸ばし、消費を増やす必要があると主張する。
これに対し、経団連の中西宏明会長は「日本の賃金水準は先進国の中でも決して高くない。賃上げを続けるモメンタム(勢い)は大事だと応じた。
ただ、経営側の賃上げ意欲は昨年よりも明らかに後退している。製造業の業績や景況感に米中貿易摩擦や中東情勢が影を落としていることが大きい。かつて「官製春闘」と呼ばれたような政権による賃上げ圧力も鳴りを潜める。経営側の今年の春闘の指針では、業績好調な企業に積極的な賃上げを求める文言を削除。各社一律ではなく、各社の実情に応じた賃上げを検討する姿勢を強調する。
実際、自動車大手ホンダの労組は今春闘で要求するベア相当額を昨年より1000円低い「月2000円」とする執行部案を決めた。トヨタ自動車の労組も年間一時金(ボーナス)の要求額を前年実績より0.2ヶ月分少なくする方針だ。人手不足に悩むホテルや旅行業の産別組織「サービス連合」は14年以降続けてきた0.5%のベア要求を今回から1%に引き上げる。だが、中国で広がる新型肺炎の影響による訪日ツアーの中止など、先が読めない経営環境のもと、経営側がすんなり応じるとは限らない。
非正規社員にも「昇給ルールを」
今春闘では「格差是正」も大きなテーマだ。連合は今回、非正規社員にも勤続年数に応じた昇給ルールを導入したり、時給1100円以上の「企業内最低賃金協定」を労使が結んだりすることを要求に盛り込んだ。
今年4月から、正社員と非正規雇用の格差是正を目指す同一労働同一賃金の関連法が大企業向け(中小企業は21年4月から)に施行されることもあり、経営側の回答が注目される。
経団連は今回、日本経済の活性化のためとして年功型賃金や新卒一括採用終身雇用といった日本型雇用を見直す議論を呼びかける。だが、連合の神津会長は「我々の問題意識は、日本型雇用の良い部分を失ってきた20年にあると」反論。非正規社員の待遇を求めていく姿勢だ。(吉田貴司、加藤裕則)