国際労働機関(ILO)は94号条約において、国や自治体などの公機関が、公共サービスを委託したり、また公共工事を請け負わせるにあたって、その地域での適正な(平均的労働条件を下回ってはならない)契約を行わなければならないことを定めています。
そのため、公機関は、契約を締結するに際し、その地域の同種労働者の労働条件を調査し、その調査結果に従って、類似労働者の賃金や労働時間をはじめとした労働条件を上回ることを契約の中に明記しなくてはなりません。また、安全衛生や福利厚生の面についても充分な措置をとることを義務づけています。これが、ILO94号条約です。世界で60ヶ国が批准しています。
しかし、日本政府はこの条約を批准していません。しかも、自らつくり出した「財政難」を理由に「税金を使うのだから安けりゃええ」という行政の姿勢が強まり、労働者や請負企業を苦しめています。本来、行政は使用者としても模範的でなくてはなりませんが、大阪労連と公契約懇談会の調査でも、委託労働者の労働条件の悪化と収益を確保できない中小建設業の実態が浮かび上がっています。
公共工事で働く建設労働者の賃金は、契約時の見積もり単価から3割以上もピンハネされています。赤字単価のおしつけや、工事代金・賃金の不払いも深刻です。大阪府営住宅建設現場で調査した時も、「設計労務単価(二省協定)があるなら、その金額が是非欲しい、ピンハネは無くせないのか」と、建設退職金制度(建退共)では「会社の金庫にあるらしく、証紙を張ってもらえません」と、本来なら数百万円の退職金になるベテランの大工さんが嘆いていました。
印刷業界の実態もひどいものです。大阪市の区役所広報紙の落札価格は、積算資料にもとづく単価の3分の1にまで引き下げられています。印刷物の多くは物品扱いで、積算に人件費は反映されていません。懇談で安値発注に苦しむ経営者は「利益でないことわかっている、予算を理由に勝手にきめた金額で仕事させられている、技術を評価し、製造物として扱って欲しい」と、訴えています。
教科書出版業界はどうでしょうか。最近の教科書はカラー化、大判化で製造コストが上がっています。しかし、国は教科書価格を買いたたき、何も書いていない大学ノートよりも安い価格で買い上げています。業界からも「文部科学省の根拠のない言い値で金額が決まる仕組みになっている、政府は要望聞いてくれない」の声。
委託労働者の条件は引き下がる一方です。自治体の委託事業に従事する労働者は、入札のたびに賃金が引き下がり、最低賃金違反も起こっています。競争入札で委託業者が入れ替われば、容赦なく首切りされています。労働者の半数が臨時職員・非常勤職員という自治体も珍しくなくなりました。安全・安心をささえる公共サービスがこの実態です。賃金も、最低賃金をわずか上回る水準で、地域の実勢時間給をそうとう下回る現状です。
公契約法の考え方は、パリの水道業者と労働者が賃金水準を協定し、協定違反や別地域から参入してくことを排除しようとすることから始まったとされています。日本でも、江戸時代から「太子講」という建築職人の組織がつくられ、地域の有力者と相談して賃金の協定を結び、「おきて破り」には厳しい処置がとられていたと言われます。今日の公務労働の現状は「小さな政府(自治体)」づくりによって、貧困層を拡大し、雇用ルールと安全・安心を破壊する先頭に、自治体がたつことを競い合おうとしています。公正な発注、適正な賃金と雇用の確保は住民の願いでもあります。
大阪では大阪労連、自治労連、大建労、全建労、建交労など「公契約条例の実現めざす懇談会」が6年越しの活動をすすめています。服部信一郎(大阪労連副議長)