大阪府の橋下徹知事は6月17日、陸上自衛隊信太山駐屯地(和泉市)を訪ね、府庁職員の体験入隊を「ぜひ検討したい」と述べたようだ。
なんという短慮で無謀な考えであることか。朝日の記事によれば、体験入隊は、「午前6時の起床から午後11時の消灯まで、入浴を除いて自由時間はなく、制限時間内での3キロ走、腕立て伏せや腹筋をしたりする体力検定、10キロ行進などに取り組む」という。
これに知事の指示で従事するとしたら業務にほかならないが、これほどの長時間の拘束的業務を命ずることは労働基準法違反ではないか。地方公務員法の第35条に定められた、「職員は……当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」という、職員の職務専念義務にも反する疑いがある。
若い職員であれ、ベテラン職員であれ、自衛隊で特訓するということは絶対服従の軍隊規律を身につけさせることにほかならない。言いたい放題の無理難題を職員に強いり、職員には有無を言わせない。橋下知事のそんな姿勢がみえてくる。
18日の朝日には、<体験入隊「死んでしまう」>という記事が出ている。17日午後、知事は、部長会議で副知事や部長ら幹部19人に、8月にでも泊まり込みの入隊ができないかと切り出したという。この19人のなかには60歳近くの人もおり、ある部長は記事のなかで「この歳で真夏に訓練すれば死んでしまう」とこぼしている。
三重県伊勢市では「7人のメタボ侍」と称した市役所職員の1人が昨年8月半ばの猛暑のなかでのジョギングで死亡した。読売の記事によれば、市職員が率先して肥満予防に取り組もうと、腹囲85センチ以上の部課長級職員のうち7人がそれぞれ減量目標を立て、10月に成果を公表することにしていたという。
大阪府は職員は、財政再建を旗印にした橋下「維新」プログラムで人員も賃金も大幅に減らされ、くたくたになっているものと想像される。そこに猛烈特訓ときては、「19人の維新兵士」はバタバタ倒れたとしても不思議ではない。森村誠一には「企業特訓殺人事件」という短編がある。橋本知事の自衛隊特訓の思いつきを、行政特訓殺人事件にさせてはならない。
(注)6月30日の時事通信によると橋下知事は朝礼における職員の質問に対し「やりません」と言明。ただし、新規採用職員を対象に実施を検討するという。