森岡孝二 上場企業は法規に合致した労務管理を

 企業の労務に関するコンプライアンス(法令順守)の実態を把握するために、このほど大阪の市民団体「株主オンブズマン」が、上場企業三〇〇社を対象にアンケート調査を実施した。以下では七八社から寄せられた回答をもとに、調査から見えてきた労働環境の改善の課題について述べたい。

 回答企業の正社員の性別構成は男性八七%、女性一三%であった。役員および管理職の女性比率は取締役一・一%、執行役〇・二%、監査役一・六%、部長一%、課長二・七%であった。

 これが男女雇用機会均等法の成立から二三年、男女共同参画社会基本法の成立から九年になる日本の上場企業の現実である。

 派遣労働者は五六社の合計で五万一〇二二人であった。構内請負労働者は二四社の合計で四万二三八〇人であった。電機・電機メーカー三社だけで派遣一万五八五五人、請負二万七四一六人を受け入れている。これは雇用の間接化と外部化が大手企業でどれほど広がっているかを示すものである。

 労働基準法は労使協定を締結し労働基準監督署に届け出ることを要件に、時間外および休日に労働をさせることを認めている。そこには自ずと健康配慮上の限度があるはずだが、一日について延長することができる時間を一五時間としている企業が五社もあった。

 厚生労働省は残業が月平均八〇時間を超えると過労死・過労自殺の発症との関連性が強くなるとしている。にもかかわらず有効回答企業の六割が、一か月について特例的に延長することができる時間を八〇時間以上、三割が一〇〇時間以上としていた。これでは過労死・過労自殺が多発してもおかしくない。

 「名ばかり管理職」が問題になっているなかで、残業手当の支給対象にならない正社員の比率は二四%であった。これは見送りになったホワイトカラー・エグゼンプションの導入を待たずして、日本の職場はアメリカ並みの残業ただ働き状態になっていることを意味する。

 過去五年間に三割強の企業が残業代未払いの是正について労働基準監督署から指導を受けた。同じ期間に二割弱の企業が偽装請負の是正について労働局などから指導を受けた。また同じ期間に一割強の企業で、過重な業務に起因する脳・心臓疾患および精神障害等で労災認定を受けた従業員がいる。

 こういう事態はどう考えても正常ではない。労務に関してはコンプライアンスに程遠い状況さえある。労働基準法や職業安定法を守らない企業には労働環境の改善は期待できない。

 労働分野で企業がどれだけ法規に合致して行動しているか、どれだけ社会的責任を果たしているかは、労働者だけでなく株主や消費者にとっても重大な関心事である。企業には労務においても志を高くもって、コンプライアンス経営に徹することが求められている。

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