日本経済新聞 2010年8月6日
今年の地域別最低賃金引き上げの目安を議論していた中央最低賃金審議会の小委員会は、時間あたりの上げ幅を初めて全都道府県で10円以上とすることを決めた。全国平均では15円上がり時給728円になる。大部分の地域で現状維持とした昨年と比べ、賃金の底上げを鮮明にした。
確かに景気は回復の動きがある。だがデフレが続き、特に中小企業の経営は厳しい。円高で大手企業の海外生産移転がいっそう進み、下請けの仕事がさらに減る恐れもある。
目安通りに最低賃金が上がった場合、人件費増で苦境に陥る中小企業が広がり、雇用が失われないか心配だ。各都道府県の地方最低賃金審議会は地域ごとの実際の最低賃金引き上げに慎重を期すべきだ。
小委員会で最後まで労使が対立したのは最低賃金の水準が低い沖縄、青森など16県の上げ幅だった。
政労使などで構成する雇用戦略対話が6月、2020年までのできる限り早い時期に最低賃金を時給800円まで上げることで合意。現在629円と最も低い沖縄など4県は800円との差が大きく、労働側は16県について今年、少なくとも20円前後の引き上げが必要と主張した。
一方、経営側は、800円への引き上げは20年度までの平均で名目3%などの経済成長が前提である点を挙げ、その実績のない今年、16県の上げ幅は1〜3円とした。中立の学識者の裁定による10円以上という金額は労使の主張の間をとった形だ。
問題はその賃上げの余力が中小企業にあるかだ。従業員30人未満の事業所の時間当たり賃金は今年6月、前年同月に比べ0・1%減り、2年連続マイナスだった。中小企業はコスト削減に追われ続けている。
大手企業は新興国需要を現地生産でとって業績を急回復させているが、下請けは大手の国内生産縮小で受注が減っている。新事業への進出など経営改革にも資金がいる。最低賃金の引き上げは中小の経営を圧迫し従業員にも影響が及びかねない。
生活保護の支給額が最低賃金より高い東京、神奈川など12都道府県は、受給者が職に就く意欲をそがないよう、着実に最低賃金を上げていく必要がある。ただし中小企業に無理がないようにする配慮もほしい。