お笑いタレントの母親が生活保護を受けていた問題をきっかけに、生活保護の制度の在り方に関心が高まっている。国は支給水準引き下げや、受給を厳格化する方向で見直しを検討している。
受給者に対して偏見や差別と受け取られかねない厳しい意見も出ているという。しかし、生活保護は最低限の生活が保障されるという国民の権利だ。生存権を定めた憲法25条に基づき生活保護の支給を求めた朝日訴訟に象徴されるように、努力を重ね培ってきた制度である。
不正受給など是正は必要だが、決して内容的に後退させてはならない。本当に必要としている人たちが申請をためらい、孤独化・餓死する事態を招いてはならない。
2010年の雇用者に占める非正規労働者の割合は38・8%。3人に1人は不安定な雇用を強いられ、失業はそのまま生活困窮化につながる。生活保護の問題に誰でも直面する可能性がある。
厚労省は親族による扶養義務強化を打ち出した。確かに扶養義務のある親族が助け合うのが合理的かもしれないが、支援する親族の経済力への配慮など制度設計は慎重な検討が必要だ。また忘れてはならないのは、生活保護制度は生活困窮というリスクを広く社会で担うため作られたということだ。
親族や社会、国の役割をどう分担するか。新しい時代の生活保護制度の在り方をめぐり国民的合意づくりを急ぐべきだ。
生活保護の受給者は過去最多を更新し、210万人を超えた。財政事情も厳しいが、だからといって個人の倫理観や社会的道徳の問題にすり替え、国民を保護する義務を怠ってはならない。
生活保護は戦後の混乱期に200万人を超えていたが、経済成長とともに一貫して減った。増加に転じたのは1995年からで、日本経済の停滞と軌を一にする。さらにリーマン・ショック後は現役世代の受給者が急増している。
根本的問題は、雇用環境の悪化に対し、国が有効な政策を打ち出せなかったことではないか。受給者は低年金の高齢者も多く、社会保障のほころびを放置した責任もある。
国は、貧困・格差対策として生活保護の見直しを含む「生活支援戦略」を今秋策定する。必要なのは、生活保護から抜け出る環境づくりや雇用環境の改善だ。弱者切り捨ての発想であってはならない。