北海道新聞社説 過労死防止 実効性ある残業規制を

北海道新聞 2013年1月7日 

  過労死という言葉が広く使われるようになって四半世紀になる。犠牲者は減るどころか増える一方だ。

 「命より大事な仕事ってありますか」と言い残し、亡くなった人もいる。生きがいであるはずの仕事で、身も心も疲れ果て死に至った無念はいかばかりか。

 過労死や過労自殺は、家族や友人の心にも深い傷痕を残す。これ以上、職場で命が粗末に扱われるようなことがあってはならない。

 遺族や支援者が過労死防止基本法の制定を求め、100万人を目標に署名活動をしている。

 法案は、《1》国が過労死防止を宣言する《2》国、自治体、事業主が過労死をなくすためのそれぞれの責務を明確にする《3》国が過労死に関する調査や対策をまとめる―が柱だ。

 雇用情勢が悪化する中、労働者は長時間労働を余儀なくされる。中小企業などではコスト競争にさらされ、待遇改善がままならない。

 労働者や企業任せでは解決の道は遠い。基本法の制定を急ぎ、過労死を許さない認識や取り組みを社会全体で共有しなければならない。

 厚生労働省によると、過労死に関連する労災請求は2011年度が前年度比約12%増の898件。過労自殺関連の請求も約8%増の1272件で過去最多となった。

 問題なのは、過労自殺が若い人に目立つことである。十分な指導を受けないまま本人の能力や体力を超える業務が課されているためだ。

 若者を使い捨てにしているとみられても仕方ない。前途ある人間が犠牲になるのでは社会全体の損失だ。

 企業は労働時間や労働密度に注意を払うとともに相談体制を充実させ、若者を孤立させてはならない。

 労働基準法は労働時間を1日8時間、週40時間とし、原則的に残業を認めていない。

 しかし、例外的に労使で協定を結べば残業が認められる。それでも月45時間、年360時間を限度としているが、法的な拘束力はない。

 過労死になる目安は残業時間が月100時間または2〜6カ月前の月平均が80時間以上とされる。

 総務省の10年の調査では、20〜59歳の労働者の1割に当たる約500万人が目安を超えている。

 これでは労基法の趣旨が骨抜きにされていると言わざるを得ない。過労死防止基本法の制定と合わせ、やむなく残業する場合でも最低限とし、上限を守るために罰則を強化するなど実効性のある規制も必要だ。

 経営側は、需要が増えたときに対応できるよう、労働時間規制の弾力化を求めている。社員が健康でなければ生産性も上がらないはずだ。その原点を忘れてはならない。

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