東京社説 日本再生 中間層復活と向き合え

東京新聞 2013年1月15日

 安倍政権が成長重視でデフレ脱却を目指す政策を打ち出した。企業を元気づけて利益を国民に還流させるシナリオだが、企業が富を抱え込んでは消費の主役を担う中間層の復活が遠くなる。

 「一九九三〜二〇一一年を通じ一般労働者、パートとも給与が伸びない中、パートの比率上昇が給与総額減少の最大要因となっている」。昨年、厚生労働省がまとめた「分厚い中間層の復活に向けた課題」を副題とする労働経済分析の内容だ。

 分析は「消費性向の高い中所得者層を増加させ、潜在需要の顕在化を進めることが重要だ」とも指摘している。

 九四年、日本の大企業・製造業の一人当たりの賃金は中小企業・非製造業の一・六倍だったが、〇八年になると二・二倍に広がった。大企業は台頭する新興国市場を開拓しつつ成長してきたが、国内が主力の中小企業は海外の成長を取り込むことが難しい。

 さらに企業の多くは九九年の労働者派遣法改正により、専門職に限られてきた派遣が製造業にも拡大されたことで、人件費を抑え込む糸口を手元に引き寄せた。

 資本と労働が分け合うべき利益を資本側にばかりに偏在させる構造には、「企業の暴走」と指弾する声が少なくない。米国のライシュ元労働長官もその一人だ。

 その結果、余暇を楽しみ、購買力もある年収五百万〜一千万円以下の中間層は、バブル崩壊後の28%から20%近くに縮小した。

 今や所得が不安定なパートや派遣・契約社員などの非正規労働者は全体の四割近い。中間層の崩壊を放置するようでは、日本経済を元気づける道が著しく狭まる。

 安倍晋三首相は、大胆な金融緩和、公共事業、成長戦略の「三本の矢」で経済成長を促すと表明した。企業の国際競争力を向上させ、稼いだ富を国民に還流させる好循環を期待しているようだ。

 しかし、企業の足元には既に二百兆円もの資金が積み上がっている。人口減少による国内投資先の縮小などが背景だが、若い人材への投資まで削っては技術継承が停滞し、将来の経営をも危うくすることを知るべきだ。

 かつて、潤沢な手元資金に着目した同じ自民党の福田康夫元首相は経団連に賃上げを求めている。

 安倍首相も腰を据え経済界に協力を要請すべきだろう。厚労省の分析は野田政権時代のものだが、政権が代わろうとも中間層復活は日本再生に避けて通れぬ課題だ。

 

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